第4章 変わりゆく関係、別れ
思わず叩くようにして払い除けてしまったので、触れ合った肌から、パチンと乾いた音が響いた。
払い除けられたリヴァイの手が、所在なげに空を彷徨う。
二人の間に、気まずい沈黙が落ちた。
やってしまった、とザラは唇を噛み締めた。
しかし、謝ろうにもそのタイミングすらもう逃してしまったような気がして、俯いた顔を上げられない。
リヴァイは、ザラのそんな様子をリヴァイに対する拒絶ととった。
一歩後ろへ後退ると、静かに払い除けられた手を下ろした。
「……悪かった。気安く触るような真似をして」
呟くように言い残して、リヴァイはそのままもと来た道を戻っていった。
普段あれだけ明るいザラが、青ざめた顔をして俯いていた。
触れられるのがそれだけ嫌だったのだろう。
他にも思い当たる節があるとすれば、昨夜医務室で手に触れたことである。
(あの時こそ、ザラは何も言わなかったが…)
きっとあの後、触れられた嫌悪感に悩まされたのだろう。
懐かれたのをいいことに、距離感を間違えたかとリヴァイは己を戒めた。
明るく陽気な、純真無垢な新兵。
気持ちのいいほどによく笑うその顔が可愛く、つい妹を可愛がるような気持ちで手を伸ばしてしまったが、普段底抜けに明るい奴があんなにも塞ぎ込むほどに落ち込ませてしまったらしい。
ただの上官と部下として、守るべき線引きは守るべきだったとリヴァイは胸中で呟いた。
ザラにばかり目をかけていた自覚がある。
そこには勿論、力を持った新兵に対する上官としての期待もあったが、それ以上に一人の人間として、ザラに興味があったことは否めない。
(…奴にだけ目をかけるのはよそう。ただの一兵士として、…上官として、然るべき対応をしよう)
ふとリヴァイの脳裏に、イザベルの顔がよぎった。
ザラとよく似ている。
よく笑い、泣き、どこまでも素直で、一直線だった。
本当の妹のように可愛がっていた彼女のことを、時折思い出す。
(…まだ間に合う)
兄貴、とイザベルが親しみを込めて自分を呼ぶ声が耳朶に蘇る。
もうたくさんだ、と思った。
大切になってしまったものを、守りたいと思うのも、失うのも、もう、たくさんだ。
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