第4章 変わりゆく関係、別れ
掴んでから、冷たいのは怪我をしている方の手だけで、もう片方の手はほんのりと温まっていることに気がついた。
おや、とリヴァイは不思議に思った。
『昔から血の巡りがあまりよくないみたいで、手先足先がいつも冷たくて…』
当の本人は片方の手が温まっていることになど気付いていないらしい。
手を握ったまま、リヴァイはじっとザラの顔を見つめた。
『あの…兵長、何か?』
押し黙ったまま何も返ってこないので、気まずそうにザラが言う。
「…ここへ来る前、アスクウィスと一緒だったのか」
『え、ええ…すぐそこの、道の角までついてきてもらいました』
何故リヴァイがそんなことを尋ねるのかザラはわかりかねたが、リヴァイは何かに納得したらしい。
感情を表へ出さぬまま、ふうんと小さく呟いた。
(こいつの手を…)
温めたのは、アスクウィスか、とリヴァイは思った。
ザラの小さな手を両手で包み込み、少し力を込めて引く。
ザラが前へよろめき、ほんの少しだけ二人の距離が近づいた。
「…これだけ冷てえと、立体機動のグリップ握るのも苦労するだろう」
互いの呼吸の音さえ聞こえそうな距離であったので、ザラは思わず、身をこわばらせて視線を泳がせた。
『ああ、いえ…そんな。…もう、慣れましたから』
「…ふん、そうかい」
リヴァイの指が、ザラの手をそっと撫でた。
この手をアスクウィスに握られていた時、こいつは一体、どんな顔をしていたのだろうとリヴァイは思った。
『…兵長は』
視線を落としたまま、静かにザラは微笑んだ。
『…兵長の手は、温かいんですね…』
思わず零れた柔らかな笑みに、リヴァイの目は惹きつけられた。
握られていた手を解き、リヴァイの手を広げると、ザラはその掌をじっと見つめた。
人類最強の兵士の手。
この兵団を率いる、兵士長の手。
どれだけ厚く、ごつごつと硬い手なのかと思っていたのに、触れてみると予想と反して白く、華奢で、繊細な手であった。
『…兵長を慕う人達に見られたら、殺されちゃうな』
笑いながら、ザラが言う。
『…みんなこの手に、憧れてるんですよ』
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