第4章 変わりゆく関係、別れ
「今日、訓練中に脳震盪を起こしたやつがいてな。そいつの様子を見に来た」
医務室の中に並べられているベッドのうちの一つをリヴァイが指差した。
カーテンで仕切られているので中は見えないが、怪我人がずらりと寝ているらしかった。
「で、お前はなんだ。誰かの見舞いか」
リヴァイに聞かれて、ザラは慌てて首を振った。
『手を怪我したので、手当てしてもらいに来ました』
血の出ている手の甲を見せながらザラが言う。
『小さな怪我なんですが、医務室で診てもらえとアーヴィンがうるさくて…』
「ああ、例の同郷の馴染みか。奴も大変だな、最近はお前のおもりに追われてるんだろ」
『そっ…そんなことありません!』
からかうリヴァイに声を荒げたところで、怪我人たちが寝ていることを思い出し、慌ててザラは口を噤んだ。
「冗談だ。…で?怪我の具合はどうなんだ、見せてみろ」
リヴァイがザラの手を取る。
ついさっきまでアーヴィンと触れていたので、ザラはついどきりとした。
アーヴィンよりも細く、華奢な指だった。
『あの…、担当医の先生は…』
「ああ、俺と入れ違いで出ていった。今日は怪我人が多くてまだ夕食を摂ってないと言ってたんでな。俺が見てるから休憩してこいと追い出した」
ザラの手の甲の傷の深さを確認し、リヴァイは戸棚から消毒液と脱脂綿を取り出すと、ザラが止めるよりも早く慣れた手付きで消毒を始めた。
消毒液が傷口へ触れ、ズキリと鋭い痛みが走った。
痛みに驚いたザラが咄嗟に手を引こうとするので、動くな、とリヴァイが声を低くして咎める。
血と消毒液を拭き取り、最後に簡単に包帯を巻いて結ぶ。
できたぞ、とリヴァイが声をかけるまで、ザラは固く目を瞑ったまま、怯えるようにじっとしていた。
『…わ、すみません兵長。ありがとうございます…』
「えらい怖がりようだったな。傷が怖いのか」
『いえ、傷というか、手当ての痛みが苦手で…』
嫌そうにザラが言う。
「そういやお前、少し手が冷たすぎるんじゃねえか。いつもこうなのか」
一度離した手をもう一度リヴァイが掴む。
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