第4章 変わりゆく関係、別れ
親切に忠告しているにも関わらず、さほど気に留めない様子でザラが笑うので、アーヴィンは思わず眉をしかめた。
昔から自身のことには無頓着なザラである。
このままではいつか大怪我をしかねないとアーヴィンは不安な気持ちになった。
「おい、真剣に聞いてるのか。俺はお前の心配をして言ってるんだぞ」
声を低くしてアーヴィンが言うと、ザラはきょとんと目を丸くした。
思わず、ザラの手を握るアーヴィンの手に力がこもる。
ザラの大きな瞳が、驚いて、まっすぐにアーヴィンを見つめていた。
アーヴィンは息を飲んだ。
じっと見つめていると、吸い込まれそうな瞳だと思った。
『わ、わかってるよ。本当に、気をつける。…ね、アーヴィン、手、痛いよ』
言われて、アーヴィンはハッとしてザラの手を握る力を弱めた。
すまないと謝って、ザラの手をさする。
「けっこう血が出てるな。一度医務室で、ちゃんと消毒してもらった方がいい」
『ええー、そんなかなあ』
「おい、わかったんだろ、つべこべ言わずに言ってこい」
はあいと不本意に返事をしたあとも、ザラは口を尖らせてぶつぶつと文句を垂れている。
アーヴィンは見かねて、ザラの怪我をしていない方の手を握ると、その手を引いて医務室の方へと歩き出した。
『わ、わかったよ、連行されなくたってちゃんと行くよ、アーヴィン。…アーヴィン?』
ザラの言葉を信じていないのであろう、アーヴィンは呼びかけを無視して問答無用で手を引いていく。
ザラに対して、アーヴィンに過保護な一面があるのは昔からのことだった。
はじめこそそんなアーヴィンのお節介を疎んでいたザラだったが、今では慣れたものである。
アーヴィンに恋心を抱いてからは、アーヴィンの気を引きたくてわざと危ないことをして彼をヤキモキさせたものだった。
そんなことをせずとも、アーヴィンの心はとうの昔にザラの物だったのだが、その想いに気が付けるほど人の気持ちに聡いザラではない。
自分の手を引く大きな背中を見つめながら、ザラは思わず微笑んだ。
過保護を嫌がるそぶりを見せながらも、本当は嬉しかったのだ。
.