第3章 生意気な新兵
考えを巡らせているのであろう、ザラの瞳がゆらゆらと動き───暫くの沈黙のあと、ようやく考えが定まったのか、ザラは躊躇いがちに口を開いた。
『…欠点ばかりに囚われていると、支障のなかった箇所まで動作のリズムが崩れるのだとよくわかりました。なので、…むしろ欠点のことは考えず、自分の長所を突き詰めることで、欠点を相殺…しようと思います』
「ほう、お前の長所とはなんだ」
人類最強と呼ばれるリヴァイ兵士長を前に自分の技能を語るなど非常に躊躇われたが、それほどの人に今後自分の立体機動について助言を乞うことなど出来るかどうかもわからない、とザラは腹を括った。
自身の立体機動術を伸ばせる最大の機会だ。
使わない手はないだろう。
『…他の新兵よりも優れていると思うのは、次にアンカーを刺す場所を特定する先見性と、身体の俊敏性…主に、瞬発力を伴った反射速度だと思います』
リヴァイが無言で頷く。
『なので、身体が低く落下するよりも早く、次の射出によりアンカーをさらに前方へと刺し高速で巻き取ることで、身体の安定を図り……ワイヤーの連続高速射出、つまり、速さで、相殺します』
言い切ると同時に、ザラの目が真っ直ぐにリヴァイの目を捉えた。
まだ自分の出した決断に自信を持ててはいないようであったが、強い光を宿した瞳だった。
悪くない、とリヴァイは胸中で呟いた。
フンと鼻を鳴らすと、挑むように小さく笑った。
「なるほど、及第点と言ったところだな。確かにてめえの速さは武器だ。だが今のワイヤー射出のままだと、派手にガスを吹かしすぎる。いいか、1/3だ。今の出力の1/3で、てめえは同じ速さを再現できるだろう」
『3分の、1…』
「こうして訓練中に思い悩むことは大いにけっこう。だが実際に壁の外で空を駆ける瞬間は、今考えている一切のことを忘れろ。自然な流れを断ち切るな。何かをしようとするな。あれこれと思案することをやめろ。全ては、余計なことになる」
低い声音でリヴァイは続けた。
「意識が介入した分だけ動作が遅れると言っていたな。全くもって、その通りだ。意識が働いた分だけてめえの速さは鈍るだろう。思考の一切を放棄しろ。てめえはそうして、きっと巨人を殺戮できる」
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