第3章 生意気な新兵
「…お前、立体機動が得意だったんだな。悪くない」
『…は、恐縮です』
目を瞬かせながらザラが言うと、リヴァイはザラの腰に取り付けてある鞘からブレードを引き抜き、くるくると回して見せた。
「だが、ワイヤー射出がわずかに遅いように見受けられた。あれは何か、意図してやっているのか」
リヴァイの言葉に、ザラがハッとして顔を上げる。
たった今思い悩んでいたことを、的確に言い当てられたのだった。
『…いえ、意図して、といいますか、単なる、意識の介入です』
自分の感覚にぴたりと合う言葉を探るように、ゆっくりとザラは続けた。
『上空での身体の位置に対して、アンカーを低く刺してしまうなかなか抜けない癖があり…それを正そうとあれこれ意識が介入する分、動作に遅れが生じているのだと思います』
「…なるほど」
───面白い、とリヴァイは思った。
リヴァイがあれやこれやと指摘せずとも、そこまで客観的に自己分析ができている。
立体機動においての身体の感覚を、本能的な部分もさることながら、理論としても理解しているようだった。
身体がどう動き、どのような軌道を辿って宙を舞っているのか、己の動きを客観的に理解できていない輩は新兵ではない兵士の中にもごまんといる。
「ワイヤー射出が遅れている自覚があるならいい。しかし…そうか、」
リヴァイは思わず、顔に笑みを滲ませた。
ザラが驚いて、リヴァイの顔を凝視する。
「そうか、お前が…」
こんなにも能力を伸ばしてやりたいと思う原石を見つけたのは初めてのことだった。
体の奥底で、火種に火がついたのをリヴァイは自覚した。
立体機動における技術の全てを継承したい相手など、現れることはないと思っていた。
現に、ザラがそれにふさわしい人間であるかどうかはわからない。
だが、現時点では申し分ない。
「…ラドフォードよ、お前の考えをお聞かせ願いたい」
ブレードの刀身を顔の前へと翳し、刀身に写った自身の瞳を見つめながらリヴァイが言う。
「アンカーの位置が低すぎるという欠点を正そうとした結果、ワイヤー射出が遅れるという形で他の場所に弊害が出た。さあ、ここからどうする」
ここから、どうする。
ザラは胸中で呟いた。
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