第3章 生意気な新兵
「本日の訓練はここまでとする!あとは個人の訓練時間とするが、思う以上に疲れているだろう。休むことも兵士の立派な仕事である。無理だけはするな。立体機動装置の点検も、怠らぬように」
上官の声が辺りへと響き渡り、訓練から解放された新兵たちは緊張の糸がぷつりと切れたように、どっとその場にへたり込んだ。
本来ならば訓練が終わった途端に地面に膝をつくなど何事かと叱責の声が飛ぶ場面であるが、それほどの気力をもってして今日の訓練に臨んでいたのだろう。
今日くらいは大目に見てやるかと、上官たちも新兵を咎めたりはしなかった。
(動き…反応速度は悪くない、けど、アンカーの位置…直ってなかった。上、上、上…意識下でコントロールしているようでは駄目だ、無意識下で力が発揮されなければ意味がない…)
額を伝う汗を拭いながら、俯いて悶々と考え込んでいると、そこへ近づいてくる人影があった。
影はザラの前で足を止める。
誰だろうと思って顔を上げる。
リヴァイだった。
『リ…リヴァイ、兵長』
「よう、生意気新兵」
慌ててザラが敬礼するのに触発されて、周りでへたり込んでいた新兵達も慌てて立ち上がり、敬礼をした。
リヴァイが見かねて、気にするなと手を振る。
普段、新兵の訓練にリヴァイほどの上官が顔を出すことなどまずなかった。
何事かと今日の訓練を取り仕切っていた兵士たちが駆け寄ってこようとしたが、それもリヴァイが手で制して止めた。
ザラにだけ用があって来たらしい。
一人の新兵のためだけに兵士長が赴いてくるなど異例の事態であるが、実際に自分の目でザラの動きを見ていた兵士たちは納得がいった。
きっとリヴァイ兵長も、どこかであの常人離れしたザラの立体機動の動きを見ていたのであろう。
「…ふ、随分お疲れのようだな。このコース、今日だけで何周したんだ」
リヴァイがちらりと一瞥しながら、親指で訓練用のコースを指差す。
今日の訓練でザラら新兵が何度も巨人との遭遇を想定して立体機動で駆け巡ったコースである。
『…は、十周はしたかと』
記憶を探りながらザラが答える。
随分な集中状態にあったらしい。
実際に何周したのか、正確な数をザラは覚えていなかった。
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