第3章 生意気な新兵
ハンジの目の奥が光る。
いつもはへらへらとおどけているのに、時折こうして、ハンジは真意の読めない表情をした。
暫しの間、無言の攻防が続いた。
鋭い眼光を交えていた両者であったが、先に折れたのはリヴァイだった。
ハンジの目から視線を外し、再びザラを遠く見つめた。
「…馬鹿言え。もし仮にそんなことがあろうもんなら…」
奴の刃は、俺のうなじに届くだろうか。
答えは、否だ。
きっと奴には殺せない。
奴には人は、殺せない。
「…再起不能になるよう、返り討ちにしてやる」
ははは、とハンジは笑った。
「手厳しいなあ。この兵団のツワモノたちが束になってかかっても、殺れるかどうか怪しいよ、リヴァイは」
日々の兵団生活の中でも特有の近寄りがたいオーラから兵士たちから恐れられているリヴァイであるが、その恐怖がより一層深まるか、崇拝の念に変わるかは、壁外調査において実際に彼の戦う様を見たあとである。
人類最強という肩書きが決して誇張されたものではなく、リヴァイのために誂えられた言葉なのだと身を以て知る。
戦場で初めてリヴァイの戦う姿を見た者は、口にこそ出さないが、みな心のなかで愕然とする。
あれは、人の皮を被った、化け物だと。
もっとも、団長であるエルヴィン・スミスがまだ団長の座に就く前、自ら地下街へと赴いて調査兵団へと引き抜いてきた人物である。
訓練兵として三年の訓練を積まないと入団出来ないという通常の規則をやすやすと飛び越え、初めての壁外調査でもその立体機動の腕前を遺憾なく発揮した。
現在は兵士長という座に就任し、兵士全体の戦力の底上げを図っている。
言わずもがな、戦闘の技術においてリヴァイの右に出る者はいない。
「間違いなく兵団の中じゃ超一級だが、まだ荒削りだな」
ザラの動きを目で追いながら、リヴァイは呟くように言った。
「…この分だと、まだまだ伸びるぞ」
驚いたように目を見開いて、ハンジが笑う。
「へえ〜!珍しいね、リヴァイがそこまで人に期待するなんて」
「期待じゃねえ、客観的事実だ」
元来、人のことなど滅多に褒めないリヴァイである。
そういう性分なのであろうが、ザラの腕前には希望を見込んだようだった。
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