第3章 生意気な新兵
「あー!リヴァイ!ここにいたのか!」
団長室にてエルヴィンとリヴァイが次の壁外調査での陣形をああでもないこうでもないと議論していたところへ、ハンジがノックもなしに乗り込んできた。
立場上は一応団長であるエルヴィンが上であるはずだが、一兵士である頃から幾度となく共に死線をくぐり抜けてきた戦友である。
ハンジのいささか無礼な言動や行動にとやかく言うことも、とっくの昔にエルヴィンは諦めていた。
「エルヴィン、ちょっとリヴァイ借りてってもいい?というかなんなら、あなたにも来て欲しいくらいなんだけど、今は抜けられなさそう?」
「ああ、すまない、少々仕事が立て込んでいてな。何か面白いものでも発見したのか」
「その通り!ぜひリヴァイにも見せたくってさ!」
早く早く、という風に足踏みをしながらハンジが急かす。
リヴァイが目配せでエルヴィンにいいのかと尋ねると、行っておいでとエルヴィンは微笑んだ。
仕方なくエルヴィンの机にもたれ掛かっていた腰を上げる。
「いいか奇行種、次の索敵陣形の思案を中断しててめえの面白い発見とやらに付き合ってやる。つまらねえことだったら埋めるからな」
「いーや、これは絶対に次の陣形配置を大きく左右する一手になり得るね。ま、百聞は一見に如かずさ。ついといで、面白いもの見せてあげるよ。場所は訓練場だよ」
訓練場という言葉に、エルヴィンの目の奥が小さく光った。
「……訓練場は確か、今期の新兵が立体機動の実践訓練をしているところだったね」
机の上で組んだ指の上に顎を乗せ、興味深そうに笑う。
「腕の立つ新兵でも、見つけたのか?」
団長室の戸口からぐるんと身を反転させて振り返ったハンジは、ご名答、とでも言いたげににんまりと笑った。
「こりゃあ凄いよ。今年一の調査兵団の儲けものになるかもしれない。エルヴィン、今からリヴァイにそれを証明させてくるから、あとはリヴァイから聞いてくれ」
勢いよく団長室を出て行ったハンジに続き、リヴァイがやれやれという風に肩を竦める素ぶりを見せながら出て行った。
扉が閉じられ、二人の足音が遠ざかる。
静寂の訪れた団長室で、エルヴィンは静かに椅子を回し、窓の外を遠く眺めた。
「…あの様子だと、さてはザラ・ラドフォードのことかな」
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