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【リヴァイ】君がため

第3章 生意気な新兵



「隊ごとに整列!訓練を開始する!」


立体機動装置を腰へと取り付けた新兵が、ずらりと上官の前に整列する。

訓練を取り仕切っているのは入団二年目以降の兵士で、本来ならばこの場に上官としてアーヴィンがいてもおかしくないのだが、今日は調整日なのでその姿はない。

正式に調査兵団に入団して以来初めての立体機動の訓練である。

壁外調査における最も重要な戦闘要素といっても過言ではない立体機動装置での訓練は、それこそ訓練兵の頃から嫌というほど叩き込まれてはいたが、二ヶ月後には実際に壁外調査を控えているともなると新兵たちはいささか緊張した面持ちであるようだった。


「各隊にそれぞれ進む順路が用意されている。各隊より一名ずつ、合図とともに順路を進むように。本日は森の中で巨人と遭遇した際の戦闘を想定してある。今更こんなことを言うのもどうかと思うが、いいか、狙うのはうなじだぞ。突然の巨人の出現に錯乱し、立体機動の操作を間違えるなんてドジは踏むなよ。常に冷静であるように」


上官の目を一心に見つめながら、ザラは自身の心音が早まるのを感じた。

過度の緊張状態に入ると、恐怖よりも興奮の方が上回るタチである。


後ろで組んだ手に思わず力が入った。
大きく息を吸って、静かに吐く。

自分の心音と呼吸音、そしてざあざあと血液の流れる音だけが耳の奥から聞こえた。


世界から一切の雑音が遠のいていく。
ザラはふと、今この世界で意志を持って動いているのは自分だけなのではないかという錯覚に陥った。


立体機動の出立地点へと移動し、各自自分の装置の最終点検を行う。

ザラは何度かワイヤーの射出を司るグリップの固さを確認し、ゆっくりとブレードの刀身を撫で付けた。


息を吸う。吐く。

目を閉じたまま、ザラは空を仰いだ。
自分の呼吸音が心地よく胸に落ちてくる。


どのくらいそうしていたのだろうか。
長いことそうしていたような気もするし、ほんの一瞬だったような気もする。


ザラは、静かに目を開けた。
引いていた波がいっぺんに押し寄せるように───世界に音が戻ってきた。


「次!訓練開始!」


上官が言うが早いかワイヤーの射出が早いか、どちらかわからぬタイミングであった。


新兵の誰よりも速く、ザラが宙へと躍り出た。


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