第3章 生意気な新兵
さすが同郷の幼馴染とでも言うべきか、ザラとアーヴィンは非常に強固な絆で結ばれているようだった。
互いを見つめる瞳を見るだけで、その信頼関係の強さがリヴァイにもよくわかった。
「…ラドフォード」
大事にしろよ、と言いかけて、リヴァイは思わず口を噤んだ。
一体、どの口がそんなことを言えよう。
兵団に属する大切な友人同士の末路というのは、リヴァイが誰よりもよくわかっている。
唯一無二の、心の拠り所。
生きる意味。世界のすべて。
そんな風に互いのことを思っていても、この世界は待ってはくれない。
この世界はいつ如何なる時も、全員に平等に、残酷だ。
名を呼ばれたあと、リヴァイの言葉の続きを待っているザラが、不思議そうにリヴァイを見つめている。
リヴァイは瞳を閉じ、静かにかぶりを振った。
「…いや、いい。忘れてくれ。…アスクウィス」
は、とアーヴィンが返事をする。
その分厚い肩へ手を乗せ、通りすがりざまに、新兵の世話をよろしく頼むぞ、とリヴァイは小さく言い残した。
リヴァイのあとを追うようにして、一つ微笑みを残すと、エルヴィンとハンジもその場を後にする。
「…お前。入団早々、兵長に目をつけられるなんてな」
上官たちの姿が完全に見えなくなったところでアーヴィンが口を開いた。
『うん、まあ…色々とあって』
「俺と間違えて噴水へ突き落としたって?」
『え、ああ…うん、ちょっとした、手違いで』
「俺だと思って噴水へ押したというのも引っかかるけどな」
『だって、似てたんだもん!兵長とアーヴィンの後ろ姿。まさかこんなにも背が伸びてるなんて、私思わなかったのよ』
恥ずかしそうに言う幼馴染に、アーヴィンは思わず笑ってしまった。
昔からお互いを川へ突き落としたり、落とし穴に引っ掛けたりといたずらを繰り返したものだった。
遠い幼き日の記憶から微塵も変わらずにいてくれた幼馴染へ、深い慈愛の念が胸を満たすのをアーヴィンは感じた。
「…さ、お前も今日は訓練があるんだろ。早く朝食を食べて向かうといい。訓練場の場所はもうわかるな」
『うん、何回も行き方練習したよ!もう大丈夫』
にわかには信じ難い言葉だったが、ザラの無邪気な笑顔につられ、思わずアーヴィンも口元をほころばせた。
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