第3章 生意気な新兵
『そういえば、手紙!できるだけ出すなんて言ったのに全然出してくれなかったね!もっと言えば、今回の王都同行も何だったの!?ようやく会えると思って訪ねて行って、不在を告げられた時の私の気持ちだよ!』
「おいおい、そんないっぺんにまくし立てるなよ、悪かったって。でも、わかるだろ?あんな訓練毎日しながら、こまめに文をしたためる方が無理な話だよ。それに王都同行は、団長直々の命令だった」
ザラは口を尖らせたまま、面白くなさそうにアーヴィンを見つめた。
なぜアーヴィンが手紙をよこしてくれなかったのか、訓練兵になってみて、その理由がザラにもよくわかった。
わかったが、道理では理解できても求めてしまうのが人間の性というものなのだろう。
家族と故郷を失ったあと、ザラに残された拠り所は、アーヴィンの存在ただ一つだけだったのだ。
生きている証明。
元気にしている証拠。
そして何より、頭のどこか片隅でもいいから、時折思い出すだけでもいいから、アーヴィンが自分のことを想ってくれているという事実がザラは欲しかった。
『…アーヴィン、腕が立つの。それとも頭脳派?団長から直々に同行を命じられるなんて、凄いじゃない』
言葉では褒めていたが、表情は晴れないままだった。
昔もよくこうして、不機嫌に頬を膨らませてはアーヴィンを困らせたものだった。
「…ザラ、便りを出さなくてすまなかった。でも、お前のことはいつも案じていたよ。もうすぐ訓練兵を卒業できそうだと手紙をもらった時は、俺だって本当に嬉しかったんだ」
全てを言葉にせずとも、アーヴィンにはザラの考えていることは手に取るようにわかった。
ふてくれている幼馴染の頭を優しく撫でると、ようやく少しばかり機嫌を直したようだった。
「確か、ハンジ分隊長の隊に入ったんだろ、風の噂に聞いたよ。俺はミケ分隊長の隊なんだ。隊が違うと日々の動きも全く違うからずっと傍にいられるわけじゃないが、これからは同じ兵団でずっと一緒だ」
アーヴィンの嬉しそうな笑顔を見て、ザラはふいに胸が苦しくなった。
四年も会っていなかったのにずるい、と思った。
ずっと便りもくれなかった、薄情な人。
でも、何をしても、この人を好きな気持ちは変わらないのだとぼんやりと思った。
.