第3章 生意気な新兵
「ザラ? …やっぱり、ザラなのか」
迷いの色が揺れていた目が、優しげに細められた。
同郷の幼馴染。
初恋の想い人。
ザラが調査兵団へと入団した理由であるその人が、目の前に立っていた。
『わあ、久しぶり…。背、伸びたねえ…』
何か気の利いたことが言いたかったのに、口から出たのはそんな言葉だった。
呆気にとられて固まっていると、ペトラが横からどんと身をぶつけてきた。
驚いて彼女を見ると、小声でここはいいから行きな、と言って微笑む。
ザラは頷き、配膳の係りの列から抜け出すと、アーヴィンもあとからついてきた。
食堂の壁際に立ち、二人は改めてお互いの姿を見つめた。
四年という月日が、お互いの容姿を随分と変えたようだった。
『ほんとにアーヴィンなの?そんなに伸びてどうしたの、背!一緒にいた頃は私とほとんど変わらなかったじゃない!』
「一体何年前の話をしてるんだよ、もう三…いや、四か。最後に会ったのは四年も前だぞ」
『ちょっと、待…、いやびっくりした。ほんとにびっくりした!そっか団長昨夜王都から戻られたんだもんね、あんたと食堂で出くわす可能性も十分にあったわけだもんね……いやーびっくりした!心の準備できてなかった』
「なんだよ、心の準備って」
しきりに吃驚したと繰り返すザラを見て、アーヴィンが思わず吹き出す。
四年で随分と女らしくなったと思ったが、中身は同郷に残してきたあの頃とそっくりそのままのようだった。
「…久しぶりだな。元気だったか」
『うん、訓練兵時代は何度も死ぬかと思ったけど、なんとか今日まで生き延びたよ。アーヴィン、あれきつくなかった?あの三年間だけは私二度とごめんだな』
訓練兵時代の苦い思い出を思い出したのか、ザラはうへえと顔を顰めた。
訓練兵の頃が辛い記憶として残っているのはアーヴィンも同じなのだろう、ザラと同じく顔をしかめてしきりに頷く。
アーヴィンは故郷にいた頃と比べると、見違えるほどに背が伸び、昔はひょろひょろと手足ばかりが細長い印象だったのに、がっしりと筋肉もついたようだった。
過酷な訓練の賜物なのだろう、誰が見ても口を揃えて頑健な体躯だと褒める体格をしていた。
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