第3章 生意気な新兵
周りの新兵たちがまた作業へと関心を戻したのを見計らって、ザラは呆れたようにペトラのことを肘で小突いた。
ペトラはというと、下を向いたまま、さも可笑しくてたまらないといった風にくつくつと笑っている。
『そんなに笑うことなくない?いや、わかるけど!兵団一の愚図なんじゃないかって疑わしい私が刺客って、笑っちゃうのはわかるけども!』
「や、だって……ふふ……こんなに鈍臭くてぶきっちょなあなたが刺客……ふふ、兵長の警戒も骨折り損だったってわけね、かわいそうに。ザラのこと考えて気を揉まれてたなんて……ふふ、ふふふ…」
余りにもペトラが笑うので、ザラは心外だと思いながらそっぽを向いた。
「まあでもよかったじゃない、晴れて誤解は解けたのね。周りで噂してる奴らも、時が経てば忘れるでしょう。これで心置きなく、毎日の業務に集中できるわね」
『そうね、それはよかったわ、兵団での生活が始まった矢先のこんなトラブル、まったくどうしようかと思ったわよ』
ため息を吐きながら皿に固いパンを乗せ、一列に並んでいる兵士のお盆の上へと順に乗せていく。
今日の朝食はパンと野菜スープだった。
毎日過酷な労働を迫られている調査兵団の兵士たちであるが、食事はごく簡単な質素なものばかりである。
毎朝の献立も大体同じようなものだった。
『このパン、何日前のかしら。いつもに増して固い気がする』
「兵団の食事に贅沢を求めちゃ駄目だわね……よく噛んで飲み込めば、何だって変わりゃしないわよきっと」
『温かくてふわふわなパンが食べたいなぁ……。次の人どうぞ……』
並んでいた兵士が立ち止まり、なかなか前に進まないので、訝しげに視線を上げると、そこにいたのは一人の青年だった。
配膳をするザラの顔を凝視したまま、その場に立ち尽くしている。
始めこそ、何だこの人はと思っていたが、顔を眺めてしばらくした時、唐突にザラの脳裏になつかしい故郷での思い出が閃いた。
艶やかな黒髪に、ずっしりとした大柄な体躯。
優しげな瞳が、迷うように揺れながら、ザラのことを見つめていた。
『えっ。……アーヴィン……?』
最後に会った頃とは随分容姿が違って見えたが、向かいに立っているのは紛れもない、幼馴染みのアーヴィンだった。
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