第3章 生意気な新兵
『ハンジさん!おはようございます』
ザラがにっこりと笑う。
「おはようザラ。新兵が朝からにこやかにリヴァイと話してるなんて、まったく見上げた精神だね!」
「ったくうるせえな、ベラベラと…」
あからさまに不機嫌そうにリヴァイはそっぽをむいた。
眉間にシワを寄せながら、小突いてくるハンジの肘を手で押し返す。
お返しに肩口でも殴ってやろうかとも思ったが、新兵がいる手前、つまらない喧嘩を買う姿を見せるのはよそうと思いとどまった。
『あ、みんながもう準備してる。それでは、失礼します』
食堂に着くと、すでに配膳の準備に取り掛かっている同期の新兵たちの姿が見えた。
配膳は新兵の中で当番が割り振られていたが、近くに居合わせれば当番でなくとも手伝うのが自然な流れである。
ザラが敬礼をしてその場を離れようとすると、すぐさまハンジが不満の声を上げた。
「えー、行っちゃうの?一緒に食べようよ、ねえリヴァイ?」
残念そうに引き止めるハンジの足の甲を容赦なくリヴァイが踏みつけた。
刹那、いってー!とハンジが大声をあげてしゃがみこむ。
「新兵が立場をわきまえてんだ、それを仮にも分隊長のてめえが引き止めてどうする」
「ううっ、立場をわきまえるなんて、そんな狭い枠組みの中に人を押し込めようとすること自体が前時代的だ…!」
「俺が守ろうとしてるのは兵団の秩序だ。…ラドフォード、もういいぞ」
上官二人のやりとりを心配な面持ちで見守っていたザラに気が付き、リヴァイが早く行け、という風にひらひらと手を振る。
ザラは敬礼し、今度こそその場を離れ、新兵たちの輪の中に加わった。
「ちぇっ!ザラとご飯食べたかったなあ……。あ、エルヴィンだ!」
不満そうに口を尖らせていたのも束の間、昨夜遅くに王都から帰ってきたのであろうエルヴィンの姿を発見し、ハンジはすぐさま笑顔になった。
「やあ、ハンジ、リヴァイ。兵団は変わりなかったか」
「変わりなかったか!?あったよあった!新兵で面白い子がいてさあ、ついさっきまでここにいた女の子なんだけど、その子リヴァイを噴水に…」
言い切る前に、ハンジの足の甲をまたもやリヴァイの踵が襲う。
本日二度目のハンジの断末魔が食堂に響き渡った。
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