第3章 生意気な新兵
『それでは、ハンジさんにお渡ししますね。……あ、兵長、一つお聞きしてもよろしいですか』
なんだ、という風にリヴァイが頷く。
『団長は王都からいつお戻りになるのでしょうか?』
「エルヴィンか?今日か……明日には戻ると言ってたんじゃねえか」
今日か明日、と口の中でザラは呟いた。
エルヴィンが帰ってくるとするならば、護衛のアーヴィンも共に帰ってくるのだろう。
ならば遅くとも明日には会える、と思わずザラの口元が綻んだ。
その綻びを、リヴァイは黙って、見つめていた。
『ありがとうございました。それでは、失礼いたします』
頭を下げて、ザラが出て行く。
関係の始まり方こそこじれたが、基本的に素直なやつなのだろうとリヴァイは思った。
ザラ・ラドフォードか、と胸中で呟く。
次の壁外調査は二ヶ月後だ。
ザラ達にとっては、それが初陣となるだろう。
(戦場では…)
素直さなど、何の役にも立たない。
素直でも、心根が優しくとも、仲間思いでも故郷に家族がいても、そんなことは何の関係もなく、全て捻り潰されてしまう。
弱ければ死ぬ。
運が悪くても、死ぬ。
その死は偶然だろうか。
それとも、必然なのか?
答えはわからない、とリヴァイは思う。
何が明暗を分けるかなど、誰にもわかりはしない。
ゆっくりと窓際に近寄って、外を眺める。
執務室の窓から、訓練場の方へと向かうザラの姿が見えた。
二ヶ月後、やつがまだここにいるかなど、誰にもわかりはしない。
そんなことをふと、思うのだった。
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