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【リヴァイ】君がため

第3章 生意気な新兵



返答もそこそこにザラは一方的に会話を切り上げると、半ば逃げるようにして執務室をあとにした。

そこ逃げ足の速さにリヴァイが唖然としていると、ふと床に置き去りにされた掃除道具が目に入る。
部屋を出て行ったはいいが、濡れた雑巾やらホウキやらが一式執務室に置き去りである。


「…おい」

リヴァイはドアのあたりに気配を感じ取って声をかけた。
部屋を出てから、掃除道具を一式忘れてきたという失態に気がついたらしい。
たった今しがた出て行ったザラが、恥ずかしそうに開け放たれたドアから顔を覗かせた。

無言でリヴァイが床の上の掃除道具を指差す。

ザラは素直に頷いて乱雑に置かれたままだった道具を取ると、ドアの前で一礼した。


「……あ、待て」

今度こそ出て行こうとするところを、何か思い立ったようにリヴァイが呼び止めた。
もうそこに、ザラをからかうような様子はなかった。

「お前、このあとまだ掃除があるのか」

『いえ、担当はこの部屋で最後です』

「そうか、ちょうどいい。一つ頼まれてくれ」

リヴァイは机上から数枚の書類を取り出し、ザラに手渡した。

「お前のとこの奇行種に渡してくれ。目を通して訂正箇所がなかったら、そのままエルヴィンへ回せと伝えてくれるか」

『あ、はい、承りました』

ザラがじっと顔を見つめてくるので、リヴァイは訝しげに眉を寄せた。
なんだ、と目で問う。

『……この執務室、兵長が使われているんですか?』

「あ?そうだが」

驚いたようにザラが視線を漂わせたので何かと思えば、視線の先は窓際の花にあるようだった。
ああ、とリヴァイが頷く。

「……花なんか飾って、女々しいやつだと思ったか?」

『そ、そんなことは思っておりません!掃除している時、花を飾ると空間が華やいでいいなと思ったので、えっと……』

何をどう伝えればいいのかよくわからなくなり、ザラは強引に話を帰結させた。

『素敵です!とっても』


言って、無邪気に笑う。
遠目から見ていて、気の明るい笑顔の多いやつだとはわかっていたが、リヴァイ相手にそんなふうに穏やかに笑いかけるのは初めてだったので、リヴァイは思わず黙ってしまった。



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