第3章 生意気な新兵
「お前が本当にただ、何かの拍子にうっかり俺の人生に迷い込んできた奴だってことはよくわかった。今まで何かと、突っかかるような真似して悪かったな。許せ」
『いえ、こちらこそ、度重なる愚行、を……』
ザラははたとそこで言葉を切った。
ふと脳裏に思い返されたのは、威勢よくリヴァイへと怒鳴った自分の姿である。
『いえ、あの……』
急にしどろもどろになりながら、ザラは続けた。
『申し訳ありませんでした、いくらカッとなったとはいえ、私、兵長に向かって許されない事を……』
「なんて顔してやがる、粉はたいたみてえに顔が真っ白だぞ」
リヴァイは思わず小さく笑った。
真っ赤になって怒ったかと思えば、真っ白になって戸惑う。
顔色がころころ変わって、全く、忙しいやつである。
そんな風に感情を表へ出すことのないリヴァイにとって、ザラは未知の存在だった。
「これまでの事は水に流そう。俺も新兵相手に大人気ないことをしたしな。ただ……」
『ただ?』
「……お前、楽しみだったのか。俺のあとを、ついてくるのが」
口を開けたまま、ザラはぽかんとして固まった。
一体何のことかと思ったが、やや遅れて、勢い任せに怒鳴った言葉のことだとわかった。
激昂のあまり、相手を責める言葉と一緒に、その他の感情まで色々と口の外へと飛び出したようだった。
───貴方様のお傍で訓練をつけられること、そのお背中を追えること、楽しみにしてたのに!
どうしてあんなこと言ったんだろうとザラは不思議に思った。
リヴァイには苦手意識を持っていたはずだ。
なのに口をついて出た言葉は、まるでリヴァイを慕っていたかと思わせるようなものだった。
意識下にないものは、言葉となって外へ放出はされないだろう。
つまり、潜在意識としてどこかに、リヴァイに対してそんな風に思っていた節があるということだ。
蒼白な顔から一転、いよいよザラは真っ赤になった。
出来るだけリヴァイから顔を背けようとするものの、リヴァイからは真っ赤な耳が丸見えである。
「おい、なんだ」
『や、あの……恥ずかしさでちょっとどうにかなりそうなので、出直してきてもいいですか』
「出直すって、どこに」
『と、とにかく今はお話できません!失礼いたします!』
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