第3章 生意気な新兵
『それは、兵長のおっしゃる"普通"の範疇に、私が収まりきらなかったからではないですか』
リヴァイが目を見開く。
思わず、口元に笑みが浮かんでしまった。
「ハッ、こいつは一本取られたな。その通り、俺の尺度で、てめえを測った」
緊張状態にあった場の空気が急激に緩んでいく。
ザラは肩にのしかかっていた重圧が一斉に解き放たれたように感じた。
『……申し訳ありません。生意気なことを言いました』
「フン、自分でわかってんならいいだろう。だがまあ、さっきみてえかはっきりした物言いは」
リヴァイが楽しそうに目を細めた。
「悪くねえな」
さっきまでと打って変わって和やかな様子のリヴァイに、ザラは戸惑いを隠さなかった。
心底毛嫌いされていて、何かにつけて文句を言われているのかと思ったら、突然こんな風に笑い出す。
真意が読めない、というザラの戸惑いが伝わったのだろうか、ザラの心を読んだかのようにリヴァイが言った。
「……嫌ってたわけじゃねえさ。ただ、不思議なもんだな。一度気にしだすと、やたらとお前が目に入る」
『気に……?』
「気にすんなって方が無理な話だろ、自分を噴水へ突き落とした張本人だぞ。てっきりはじめは俺がどこぞで恨みを買った奴だかその手先だかが、俺の命でも狙いにきてんのかと思った」
リヴァイの言葉に、ザラは思わず顔を真っ赤にさせて俯いた。
「……まあ、そういった輩にしちゃあ算段もクソもねえ、直接対決な割には実力もなさそうに見える。何より、殺意が感じられなかったしな。こっちの方がてめえの真意が読めなくてはじめは苦労したぜ」
『そんなところまで気苦労をお掛けして、申し訳ない限りです…』
「だから注意してお前を見張っておこうと思った。そしててめえが仕掛けて来るまでは、こっちからは何もせず泳がしておこうと思ったんだ。……が、とんだ誤算だったな。何なんだ、お前」
『何なんだ、とは…』
リヴァイはフンと鼻を鳴らした。
「見てると虐めたくなる。迂闊な接触は避けようと思ってたのに、結局俺の方から手を出してこのザマだ」
(暴君……)
言葉にこそ出さなかったが、何だそれはと思ったのはザラも同じだった。
だが、あらぬ誤解は解けたらしい。
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