第8章 命の記憶
「エレン…お前はまだ知らないだけだが、それも今にわかるだろう。エルヴィン・スミスに人類の希望である調査兵団が託されている理由がな」
真っ直ぐにエレンを見据えて、各々が言葉を紡ぐ。
「リヴァイ兵長があれほど信頼してるくらいだからね」
「それまでてめぇが生きていればの話だがな…」
『あの人の頭のなかが一体どうなっているのか…きっと図解して示されたところで、私には理解できないだろうね』
「そ、そんなに凄い方なんですか、エルヴィン団長は…」
口を揃えてエルヴィンを褒め称える一同に圧倒されるエレンへ向かって、ザラがにっこり微笑んだ。
『今にわかるよ、あの人は……』
ギイヤアアアアアアアアア
「!!!」
その時、突如として獣の咆哮が巨大樹の森に響き渡った。
一度には止まらず、同じ咆哮が空をつん裂き、鼓膜を突き破るのではないかと思えるほどの轟音となって森にこだまする。
「なっ、なんだ!?」
突然の事態に、困惑した様子であたりへ視線を巡らす。
ザラは声の方向を茫然と見やった。
『女型の、巨人……か……?』
声は間違いなく、女型の巨人を生け捕りにした方角から響いていた。
作戦は団長の思い描いた通りの道筋を辿ったのだろうか。
それとも……
嫌な予感が、ザラの頭をもたげた。
そう一筋縄でいく知性巨人ではあるまい。
一人別行動となった兵長はどうなったのだろう。
杞憂に終わればよいのだが───
『!』
不安げな瞳でザラが遠くの空を見つめたその時、総員撤退の意を示す信煙弾が高々と空へ打ち上がっていった。
「どうやら終わったようだ」
思わず顔に安堵の色を滲ませたグンタが、後ろを振り返り、待機していた一行へ向かって馬に戻るようにと指示を出す。
ザラはハ、と深く息をついた。
思っていたよりも随分早くに、女型の巨人との決着がついたようだった。
よかった、とザラは胸中で呟いた。
リヴァイ班の誰も失わず済んだ。
この大切な人たちが、誰も傷つくことなく任務が終わった。
そして女型の巨人の捕獲は、前代未聞の大いなる調査兵団の功績となり、エルヴィン団長とリヴァイ班の名は後世へ残り続けることになるだろう。
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