第8章 命の記憶
「少し進んだ所で馬を繋いだら立体機動に移れ。俺とは一旦別行動だ。班の指揮はエルドに任せる」
女型の巨人の壮絶な捕獲劇があったにも関わらず、リヴァイは顔色の一つも変えずに指示をした。
手綱を離し、頭上高くへアンカーを打ち込むとそのまま立体起動へ移る。
「適切な距離であの巨人からエレンを隠せ。馬を任せたぞ」
振り返ったリヴァイの目と、ザラの目がかちりと重なった。
リヴァイはまっすぐにザラを見、そしてザラもまた、まっすぐにリヴァイを見ていた。
不安そうな顔をしていた。
リヴァイは思わず、ぐっと喉が詰まるのを感じた。
任務で陣形の別の配置につくことなど今までも数え切れないほどにあった筈であるのに、現状が現状であるからか、何故かその時はリヴァイも酷く不安な気持ちになった。
だが躊躇してはいられない。
ザラの目を真っ直ぐに見据え、リヴァイは小さく、いいな、と聞いた。
ザラは確かに頷き、外套を翻して女型の巨人の方へと引き返していくリヴァイを、心配そうな面持ちで見送った。
エルド、グンタ、オルオ、ペトラ、ザラ、そしてエレンの6人は、リヴァイの指示に従い女型の巨人から適当な距離をとった場所に馬を繋ぎ、地上高く、巨大樹の枝に降り立ち待機していた。
女型の巨人が生け捕りにされた今、森は異様なまでに閑散としており、それが返って、かつて人々が観光に訪れた巨大樹の森を不気味に思わせた。
リヴァイ班の兵士はみな今回の作戦に隠されていた本当の意図について、それぞれ考えを巡らせていた。
エレンをシガンシナ区まで送り届ける本作戦の試運転に留まらないと思っていたとはいえ、知性を持った巨人を生け捕りにする算段までをも組み立て、敵を錯乱する為の仕掛けをこうも大掛かりに考えていたとは思いもしなかったのだった。
(敵を欺くにはまず味方から……)
よく言ったものだ、とザラは思った。
調査兵団きっての奇才、あのエルヴィン・スミスの考えることだ。
まんまと、などといっては無礼にあたるかもしれないが、実際のところまんまとその思惑のなかへ、知らず知らずのうちに引き込まれていたのだった。
「計画を知らされた兵は恐らく…5年前から生き残っている兵員に限るだろう」
推論を述べたのはエルドだった。
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