第3章 生意気な新兵
「だが勤務中にボサッとしてんのはいただけねえな」
ザラはたじろぎつつ、すみませんとだけ小さく言った。
直立の脚が少しだけ動く。
蹴られた膝裏を気にしているようだった。
『あの……』
「あ?」
『膝……いえ、何でもないです』
高圧的な問い返しに、ザラは渋々口をつぐんだ。
リヴァイからすればほんの軽い気持ちで蹴ったのだろうが、ザラからすればかなりの痛みだった。
はじめこそ突然上官が現れたことに動揺して気が付かなかったが、徐々に蹴られたあたりがじんじんと痛み出す。
「文句がありますって顔だな」
『いえ、文句と言いますか……その……』
「その?」
挑発するようにリヴァイが笑う。
『いえ、その……痛いなあ、って』
「……」
『ふ、ふつう、男性が女性の脚を蹴るようなことって、よほどのことがない限り、ないんじゃかなあ、と……』
「ふうん、じゃ、よほどのことだったんじゃねえのか? てめえの尺度で俺を測んじゃねえ」
ぐ、と小さく呻いてザラが黙る。
盲点を突かれた、といった表情だった。
「残念だったな、てめえの言う"普通"の範疇に、俺は収まりきらねえみたいだ」
『……そのようですね。勉強になりました』
ザラは口を一文字に引き締めると、ぐっと目を上げてリヴァイを見た。
『リヴァイ兵士長は、自分よりもひ弱なおなごに一方的に手をあげる乱暴なお方だと、心に深く刻んでおきます』
反撃しようかどうか、そもそも反撃できるのかどうかというところで迷っていたザラであったが、一方的にやられているだけではガラに合わないと腹を括ると、キッとリヴァイを睨みつけた。
怒られるなら、あとでまとめて怒られればいい。
リヴァイの片眉がぴくりと上がる。
落ち着けザラ、こんな見え透いた挑発にまんまと乗せられて何になる、血反吐吐く思いしてやっと入れた調査兵団なのに、こんなくだらないことで退団処分を食らうのか?
心の中で必死に己の愚行を止めようとする声が聞こえるが、それに対して、上官がなんだ、人類最強がなんだ、たとえ兵団で神様のように崇められている人間であったとしても、私はこんな物言いするやつは嫌いだ!という憤怒の念がむくむくと膨れ上がる。
.