第7章 歴史の動く時
リヴァイ班は長距離索敵陣形の五列中央に配置され、先頭にリヴァイを、そして中央に位置するエレンを取り囲むようにしてぐるりと他の兵士が周りへとついた。
リヴァイ班に課された任務はただ一つ、エレン・イェーガーを守り抜くこと。
(もしかするとこの作戦には「行って帰ってくる」以外の目的があるのかもしれん。そうだとしたら団長はそれを兵に説明するべきではないと判断した)
馬を走らせながら、ザラは以前グンタが口にした推測を思い返していた。
団長からの説明がない以上我々の任務は行って帰ってくることに留まる。
ならば団長を信じてその任務に終始すべきが、我々調査兵団の兵士の役目であるとグンタは判断したのだった。
死ぬな、後悔させないでくれ。
出立前にリヴァイが言った言葉をザラは胸中で反芻した。
入団から着実に場数を踏み、従来の壁外調査で簡単に命を落とすようなザラではなかった。
そのザラへ向かってリヴァイがわざわざそんな言葉を掛けたとするならば、やはり何かあるのだろう。
リヴァイは今回の作戦について何も言わなかった。
だが、気は抜けない。
この壁外調査がエレンをシガンシナ区まで送り届ける本作戦の試運転に留まるはずがないと、リヴァイ班の誰しもが心の奥底で分かっていた。
「口頭伝達です!」
突如として響いた怒号に、ザラはハッと顔を上げた。
声の主は右翼より命からがらといった様子で駆け出して来た伝達兵だった。
「右翼索敵壊滅的打撃!!右翼索敵一部機能せず!以上の伝達を左に回してください!」
サッとリヴァイ班の面々に緊張が走った。
右翼索敵が壊滅、と誰もが口の中で呟いた。
リヴァイ班が巨人と対峙することもなく無事に経路を辿っていた一方で、命を賭して戦い、その末に散っていった命のことを思わずにはいられなかった。
リヴァイの指示のもと、ペトラが左翼側への伝達の為に一時離脱する。
遠ざかっていくペトラの姿が随分小さくなった時、不意に右側後方よりドオン、ドオンと続け様に煙弾の爆発音が響き渡った。
咄嗟に馬上から後方を振り仰ぐ。
信煙弾の色を見、一同はぎょっと目を見開いた。
空へ向かって高々と打ち上げられた黒の色。
その不穏な色をじっと凝視し、ザラは思わず深く眉根を寄せたのだった。
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