第7章 歴史の動く時
ザラは涙を拭いて、ゆっくりと顔を上げ───
さっきまでの気性の昂りから一転、リヴァイを見つめて微笑した。
それが話の流れにそぐわぬ、あまりに穏やかな微笑だったので、リヴァイは不意に不安な気持ちになった。
覇気を失ったその微笑が、全てに対しての諦めのように思えたからだった。
『……辛いです』
穏やかに、しかし苦しげに笑って、ザラは言った。
『ごめんなさい、もう、……無理じゃないですか』
「……何を、言ってる」
『私たちの、関係の話』
「それは……」
表情をなくした顔で、リヴァイがぽつりと言う。
「もうこの関係を、終わりにしたいということか」
『……』
「俺から、離れたいということか」
ザラは押し黙ったまま何も言わなかった。
その無言を、リヴァイは肯定ととった。
ザラは自分でも、自分が何を望んでいるのか、よくわからなかった。
リヴァイの傍にいたい。
できることなら、この先、一生。
だが傍に居たいのに、上手に彼の傍に居ることができない。
確かにわかるのは、千切れるような胸の痛みだけだった。
早く、……ただ早く、自分とリヴァイにまつわる一切の痛みや苦しみから、解放されたいとだけ漠然と思うのだった。
ザラは怖かった。
こんな風に幼稚に思い悩み、自分勝手に別れを切り出そうとするような自分に、いつかリヴァイが愛想を尽かしてしまうことが何よりも恐ろしく感じた。
傍にいたい、離れたい。
愛していたい、嫌いたい。
───想って欲しい。他の、だれよりも。
「……駄目だ、許さん」
俯くザラへ向かってリヴァイが言った。
「傍にいると誓った。永遠に、傍にいると。今離れたら俺たちは必ず後悔する。俺はお前の手を離さない。お前が離れたいと言っても、俺は許さない」
『……嫌です』
「何が」
『無理なんです。とてもじゃないけど、正気でいられない。ごめんなさいもう、堪忍してください、私駄目なんです、もう駄目なんです』
言って、ザラはその場へわっと泣き崩れた。
机に伏せて震わせるザラの肩を、リヴァイは茫然と見つめていた。
顔から血の気が引いていくのが確かにわかった。
暗く狭まった視野のなかで、愛した少女が悲痛な声をあげて泣いていた。
.