第7章 歴史の動く時
「何が正しかったかなんて、誰にもわかりやしねえんだ。お前の行動は、誰にも咎められな……」
『リヴァイさんが私を叱らないのは』
静かではあったが、確かな口調でザラがリヴァイの声を遮った。
『……兵長が私を叱らないのは、私が貴方と、私的な関係に、あるからですか』
「……何が言いたい」
『……自分は、本当にリヴァイ班に必要でしょうか。本当にリヴァイ班に、即した人間でしょうか』
ザラは伏せていた目を上げてリヴァイを睨んだ。
わずかにその目が、潤んでいた。
『どうして叱ってくださらないの。どうして、お咎めにならないんです。とてもじゃないけれど私、この班に属する者として適性があるとは思えません。それを、どうして……どうして私なんかが、この班の所属なんです。もっと優秀な適した人間が、』
「お前の価値を決めるのはお前じゃない。俺が判断し、お前の所属を決めた。そしてこれは、俺の一存により班員を決めろという団長の直命でもある」
『兵長のお考えがわかりません、私なんぞに務める職務だとはとても、』
「自惚れるなよ」
痺れを切らしたリヴァイが有無を言わさぬ強い口調で遮った。
食い下がるまいと必死に言葉を重ねていたザラも、今回ばかりは口を噤んだ。
「あまり馬鹿げたことを言うな、組織の中での自分の立場を弁えろ。無論お前だけじゃない、俺の立場もだ。件の決断に私情は一切挟まなかった。これは命令だ。任務の遂行にはお前の力が必要だ。お前が悩み辞退したいなどと思ったところで、状況は絶対に覆らない」
顔を伏せたまま耐え凌ぐようにじっとしているザラへ向かって、リヴァイは強い口調で叱責した。
冗談じゃないと思った。
エレン巨人化に際する例の一件がザラの自信を喪失させ、ある事ない事にまでくよくよと弱気に考え至っているようだった。
「何を思い悩んでいる。しっかりしろ、こんなところでつまらねえことに足をとられるな」
『……』
今ザラの戦力を失うことは、兵団にとって痛手などという言葉では済まされないほどの実害があった。
組織を動かす側の人間としての立場からも勿論であるが、何よりザラの上官として、そして恋人として、リヴァイは焦った。
そんな方向へ転ぶお前じゃないだろうと本気で危ぶんだ。
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