第7章 歴史の動く時
朝、目が覚めてすぐ、リヴァイは部屋に一人だと気配で悟った。
ゆっくりと身を起こし、ぐるりと部屋を見渡す。
窓を開けなければ日の光も入らぬ石造りの古城の一室には、夜明け特有の静謐な空気が立ち込めていた。
リヴァイ班一行しか滞在していない古城からは、耳をすましても物音の一つも聞こえない。
まだ班員たちも起き出してはないのだろう。
前髪をかき上げ、リヴァイは深くため息をついた。
ザラいなくして横になって眠れたのは久しぶりのことだった。
この古城がまとう独特の空気が、リヴァイを深い眠りへと誘ったのかもしれない。
(ザラを……)
───探さねば、とリヴァイは思った。
昨夜、エレンの様子を見てくると言ってリヴァイの部屋を出て行ったきり、ザラは戻ってこなかった。
早く戻れよなどとリヴァイも言って見送ったものの、ザラが戻ってこないことははじめから薄々わかっていた。
ぎゅっと口角を上げて笑いながら明るい声を出すのが、嘘をつくときのザラの癖だった。
故意にではないにせよ予期せぬタイミングでエレンが巨人化した際、その場に居合わせたリヴァイ班の兵士たちは、ザラただ一人を除いて、全員が躊躇いなく刀を抜いた。
リヴァイが諫めてもなお彼らは刀を鞘に収めることなく、戸惑うエレンへ向かって激昂した。
刃を向けたということは、戦いの末に自身の命を落とすことすら厭わない覚悟の表れだ。
彼らは本気だった。
刺し違えてでも殺す覚悟が彼らにはあった。
ザラは、選べなかった。
そしてそのことを酷く悔いているようだった。
なぜ自分はこんなにも弱いのかと自責の念に苛まれているに違いない。
だがそれは、本当に弱さだろうかとリヴァイは思った。
迅速に、時には非情だと後ろ指を差されるような決断ですらも、最善の状況の為とあらば躊躇いなく下す。
特別作戦班に必要なのは、そうした力を宿した人間だった。
現に彼らはリヴァイの期待通りに行動し、決断した。
明日を生きられる保証のない日々を送っている。
大勢を生かす為に一人を殺すことも、仕方のないことだと割り切らねばやっていられない。
迷いが介入する前に決断し、実行する。
迷うということは時として、酷く勇気のいることのようにリヴァイは思うのだった。
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