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【リヴァイ】君がため

第7章 歴史の動く時



翌日、ハンジとの約束通り、エレンの巨人化能力に関する実験が行われた。


地中に堀った井戸にエレンが入り、合図を待って巨人化する───


複雑な動作はない実験であったが、結論から言うと、実験は失敗に終わった。


「ハンジさん……巨人化できません……」


合図の後も何の変化もないエレンを不審に思ってリヴァイが井戸を覗くと、両方の手を血だらけにしてわなわなと肩を震わせるエレンの姿が、そこにあった。



***



その日の夜、ザラは何枚もの毛布を携えて、地下への階段を下っていた。

気温が低く、底冷えする夜だった。
地下に寝泊まりしているエレンのことが心配になり、少しでも暖がとれればと毛布を運んでいるのだった。



『エレン』


ノックしようと思ったのに、両手が塞がっているので仕方なく扉の前で呼び掛ける。

するとややあって、中のエレンが返事と共に扉を開けた。


「ザラさん!どうかされたんですか」


にこりと笑ってエレンが言う。
ザラも思わず微笑みを返したが、笑うエレンの目元が赤く色付いていることを見逃さなかった。

人知れず、エレンは部屋で泣いていたようだった。


『ごめんねー遅くに!ここ寒くない?毛布たくさん持ってきた!』


ザラは努めて明るく言い、両手に携えていた毛布を全てエレンのベッドの上へと下ろした。


『いくら任務とは言え、こんなところに一人で寝なきゃなんて、幽閉まがいでちょっと嫌よねー』


ザラが言うと、エレンは慌てて首を振った。


「いえ、当然のことだと思います……。ほら今日みたいに、自分でさえ自分の体がどうなっているのか、よくわかっていませんから……」


俯いて、エレンは言った。

今日みたいにというのは、巨人化実験のあとの騒動のことを指しているのだと聞かずともわかった。



『…今日のこと、気にしてるの』



ザラがぽつりと言うと、エレンは驚いたように顔を上げて───

やはり悲しく、笑うのだった。



「気にするに、決まってるじゃないですか…」



エレンは自分の手の肉を噛みちぎっても尚、巨人にはなれなかった。

そして兵士達の緊張がほんの少し緩んだその刹那、全く意図しないタイミングで、エレンの右腕は巨人化したのであった。


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