第7章 歴史の動く時
ハンジの豪快な笑い声を背に、ザラらは広間を後にした。
「すごいわね、いくら元自分の隊の隊長とは言え、ハンジさんにこれだけ臆さず接することのできる兵士なんてあなたくらいじゃないかしら」
ペトラがくすくす笑いながら隣に並ぶ。
『ふふん、ハンジさんに話す隙を与えたら負けよ。でもエレン……あの様子だと、朝まであのままかなあ可哀想に』
ただでさえ目まぐるしく周りの環境が変わって疲れているエレンだろうに、そこへ一切の遠慮も気遣いも見せずに突き進んでくるのがさすがはあくなき探究心の持ち主、ハンジ分隊長と言ったところだろうか。
一度話し始めたらきっと心臓でも止まらない限り、ハンジの舌の根は乾かない。
エレンの無事は祈っているが、下手に助け舟を出そうとして巻き添えを喰らうことだけは避けたかった。
「兵長、今日はこれでもう解散でしょうか」
「…ああ、ご苦労だった、あとは各自休むといい。……ザラ」
階段下でグンタが確認し、リヴァイの言葉を聞いて自分の部屋へと向かおうとしたところ、ザラだけがリヴァイに呼び止められた。
「奇行種の到来でせっかくの茶が台無しになった。口直しをしたいから俺の部屋まで持ってこい」
『ええ…私もう眠い…』
「上官の命令がきけねえのか?」
『はいっ、すぐにお持ちします!』
頑張れよザラ、とでも言いたげな表情でザラの肩を叩き、エルド達は自分の部屋へと帰っていく。
その中で一人、ザラとリヴァイの関係を知っているペトラだけがリヴァイの思惑に気が付いたようで、苦笑しながらザラの肩を叩いて去っていった。
コンコンコン。
『兵長、ザラです』
「入れ」
ティーポットとカップを乗せた盆を傾けないよう注意しながら、リヴァイの部屋へとザラがやってきた。
盆を机の上に置き、ティーカップに紅茶を注ぐと、そのまま座っているリヴァイの前へ差し出す。
『お待たせいたしました、ようやく休めると思って内心はしゃいだのに上司にお茶汲みを命じられた部下のはしゃぎ損ティーになります』
「…悪かった、咄嗟にまともな嘘がつけなかった」
『いいですけど。でもペトラ、露骨に気付いて苦笑いしてましたよ』
「は、比べて男達は疎いな」
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