第7章 歴史の動く時
その日の夜、夕食を食べ終わった後、ザラがエレンに紅茶の淹れ方を指南し、緊張した面持ちでエレンが紅茶を振る舞った。
机上のランプの薄暗い灯だけを頼りにエレンの巨人化の話になると、エレンは戸惑ったように受け答えをする。
「おい…その辺にしとけ、お前らも知ってるだろ。報告書以上の話は聞き出せねえよ」
質問を重ねるエルドをリヴァイがたしなめる。
普段取り乱すこともなく落ち着き払っているエルドが、珍しく不安そうな顔をしていた。
「まあ…それでもあいつは黙ってないだろうが。ヘタにいじくり回されて死ぬかもなお前…エレンよ」
「え?あいつとは…」
エレンが不思議そうに訊いた矢先、勢いよく扉が開け放たれ、一人の女兵士が飛び込んできた。
「こんばんはーリヴァイ班のみなさん!お城の住み心地はどうかな?」
『ハンジさん!』
ザラもよく知る兵士───分隊長のハンジだった。
ハンジは明日に予定している巨人化能力実験の承諾を得に来たらしく、エレンの明日の予定が庭の掃除だけだと知ると、すぐさま実験の約束を取り付けた。
言うまでもなく、エレンにおける全ての権限を担っているリヴァイの返事を聞くより先に取り付けた約束ではあったが。
「今日は一日何してたんだい? ザラ」
『今日ですか? えーと今日は掃除と、掃除と……、掃除ですね……』
「え? で、明日の予定は?」
『庭の…掃除です…』
はじめは明るく笑っていたザラだが、だんだんとその顔から表情が消えていく。
「掃除しかしてないじゃないか!掃除以外にすることないのかい?」
『いや、そんなまさか、我々は調査兵団の兵士なら誰もが夢見る天下のリヴァイ班ですよ、業務が掃除だけだなんて、そんなまさか…』
「でも実際暇そうにしてるじゃない? ね、とっておきの暇潰しを教えてあげようか? 例えば、人間の言語を理解する巨人の考察──」
『うっし、明日もばりばり、掃除しますか〜!』
ハンジの話を潔く遮って立ち上がったザラに続き、火の粉が飛んでくることを恐れたペトラ達も次々と広間を後にする。
「ザラ!? 仮にも元分隊長の私相手によくやるようになったねぇ!? あ、元私の隊だからそうなったのか! ハハハ! こいつはやられたなあ!」
.