第7章 歴史の動く時
リヴァイが指でパチンとザラの額を弾くと、それもそうかとザラは笑った。
ザラが新兵であった頃から、何かと調子に乗ってはこうしてリヴァイに額を弾かれたものだった。
『…さ、もう戻らないと。エレンがどきまぎして待ってるはずですよ』
「…ん」
ザラに諭され寄せていた身を離すと、リヴァイは別れ際にキスをして離れた。
「人付き合いの面でもお前のことは買ってる。エレンのこと、よろしく頼むぞ」
『はあい。じゃあ、またあとで』
にっこり笑って、ザラが手を振る。
リヴァイは小さく微笑んで、階段を降りていった。
程なくして、入れ違いになるようにしょげた顔をしたエレンが戻ってくる。
「…全部やり直せって言われました…」
こうなることはわかっていたとは言え、エレンの落ち込みようが少し気の毒になり、ザラは明るくその肩を叩いた。
『大丈夫大丈夫!はじめはみんなそうなんだから。いーい?兵長のあの厳しいチェックを突破するには、コツがあってね───』
***
『おお、オルオ!あなたはどうして、オルオなの?』
「…ザラっ!」
『お願い、オルオ!家名をお捨てになって!そうしたらわたくしも、ラドフォードの名前を捨てましょう…』
掃除も大方終わり、それぞれの部屋へシーツ類を運ぼうとしたタイミングでふとエレンが顔を上げると、上官二人がシーツをドレスの要領で体に巻き付け、とんだ茶番劇に興じている姿が目に入った。
「あれ、何なんですか…?ペトラさん」
「さあ?馬鹿二人は放っておいて、さっさとベッドの支度しちゃいましょ」
例の馬鹿二人に向かって氷の視線を送りつつ、無表情でペトラが言う。
「おいそのシーツ絶対自分で使えよな!」
『えっ何グンタ、これ使いたいって?しょうがないなー、今なら出血大サービスで、グンタのベッドにセットしてきてあげるよ!』
「ザラー!!!!!」
グンタがザラへ飛びかかり、それをシーツを身に纏ったまま軽い身のこなしでザラがかわす。
突然グンタまでをも巻き込んだ鬼ごっこが展開され、いよいよエレンは目を白黒させた。
「おい待てコラザラ!」
『捕まえてみなさいよ!こっちよグンタ───、わぶ!』
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