第7章 歴史の動く時
『…兵長』
扉に寄り掛かったままのリヴァイへ向かって、ザラが言う。
『…もっと傍に、いらしてよ』
リヴァイは苦笑して扉から身を離すと、今度は窓際にもたれ掛かって、ザラを見つめた。
「…こないだ会った時は気付かなかったが、少し、痩せたか」
手を伸ばし、ザラの頬に触れる。
ずっと働き詰めだったせいだろう、いくらかザラはやつれたように見受けられた。
「…忙しかったもんな」
『兵長だってずっとお忙しかったんでしょう。…ちゃんと寝てらっしゃる?』
「時間は確保してるが、お前がいないとどうも安眠できねえな。最近はまた座ってのうたた寝に逆戻りだ」
『まー、私ってなんて高性能な抱き枕なんでしょ』
リヴァイがため息を吐きながらザラを抱き寄せると、さもおかしそうにザラはクスクスと笑う。
「なあ…いつになったら甘やかしてくれんだ。癒しが足りないったりゃありゃしねえ」
『今甘やかしてるじゃないですか』
「……ザラ」
堪りかねて、拗ねたようにリヴァイが言う。
憮然と膨れてザラの肩に顔を埋める様子が思いの外可愛らしく、ザラは思わず笑ってしまった。
『こんなあなたの姿、エレンが見たら吃驚するでしょうね』
「死んでも見せねえから安心しろ」
『今大声で呼んでみましょうか?エレーン!って』
「フン、俺は別に構わんが、恥をかくのはお前も一緒だからな」
『ふふ!死なば諸共ってやつですね』
「まあ…物理的な死というか、社会的な死だけどな」
二人して、くすくす笑う。
幸せだ、とリヴァイは思った。
心休まる時間が流れていた。
ザラが近くにいて、穏やかに笑っている。
思わず今自分が置かれている現状を忘れそうになる程に、安らかな気持ちがリヴァイの胸を満たしていた。
「ペトラと同じ部屋に寝泊まりすると言ってたか」
『ああ、はい。沢山部屋は余ってるけど、広い部屋に一人も寂しいから、一緒に寝ましょって』
「…しょうがねえ、半分はペトラにやるか。一日置きで手を打ってやるから、明日は俺の部屋に来いよ」
『それ私がペトラに言うんですか?気まずいから兵長が仰ってよ』
「俺が言う方が気まずいだろ。第一、どんな顔して言やあいいんだ」
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