第7章 歴史の動く時
「…さて!こんなもんですかね!」
威勢の良い声を上げて、エレンがうっすらと滲んだ額の汗を拭いつつ、部屋を見渡す。
「俺、兵長に終わったこと報告してきますザラさん……、ザラさん?」
エレンが笑顔で振り向くと、ザラは顎に手を当て、神妙な面持ちで周囲に目を光らせていた。
「あの…どうか、されたんですか」
『いやまあ…ね、うん…わかった!一回お見せしてみよう!そして後のことは、それから考えよう!エレン、GO!』
「えっ何ですか、その含みのある感じ!」
内心、この程度で終了報告などしに行った日には、全てなり直せと一蹴されるのが関の山だとわかってはいたが、そういったことも含め、リヴァイ班での立ち回りを覚えていくのが新兵の仕事だろう。
可愛い子には旅をさせよ。
ザラはにっこり微笑むと、じゃ、よろしくねとエレンを送り出した。
エレンが階段を降りていくと、部屋には静寂が訪れた。
開け放した窓から、心地よい風が入ってくる。
良い天気だ、とザラは思った。
トロスト区掃討作戦から遺体回収、エレンの審議、そして特別作戦班の編成から今日に至るまで、およそ従来の一日の活動量とは比べ物にならない程に、心身を酷使した数週間であった。
目を閉じ、深く息を吐く。
目眩のするような日々だった。
束の間の休息ではあるが、こんなにも心穏やかに一日を過ごすのは、随分と久しぶりのことのように思えた。
『………』
窓際で目を閉じたまま、ザラは笑った。
『……ね、なんでそんな風に、物音を立てずにいらっしゃるの』
背後に立っている人物へ向かって声を掛ける。
すると、背後から小さく舌打ちが聞こえ、次いで、降参だという風に吐かれたため息が聞こえた。
「なんだ、気付いてたのか」
『どうして声を掛けてこないのか、不思議に思ってたんですよ』
振り返ると、部屋の扉に寄り掛かり、腕組みをするリヴァイの姿があった。
エレンに言われ、上層階の様子を見に来たのだろう。
『どうです、この部屋。40点ってところですか?』
「おい、わかっててなんでエレンを寄越した。二度手間になるだろうが」
『……ふふ、一度は兵長から直々にご指導いただかないと、エレンの為にならないかと思って』
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