第7章 歴史の動く時
旧調査兵団本部は、鬱蒼とした森の中にひっそりと建てられた石造りの古城である。
組織の拠点が移り、人が寄り付かなくなってから随分と長い年月の経った旧本部は、長らく時が止まってたこともあり外観こそ厳かな造りになっているものの、至るところが老朽化していた。
扉からは、錆びた蝶番の断末魔のような不快な音が響き、薄暗い室内はかつての栄光の場をおどろおどろしく感じさせた。
リヴァイがまず先陣を切って古城の中へと踏み込み、手元のランプを掲げると、そこかしこに蜘蛛の巣がかかり、埃が雪のように積もった様がぼんやりと浮かび上がった。
「……」
リヴァイは固く口を引き結び、押し黙っている。
『………っ!』
するとザラが、不意に持っていた荷物を乱暴に床へと投げ捨てると、慌てて何かを探し始めた。
「ザラ?どうしたんだ、急に」
何事かと狼狽した様子で、エルドが声を掛ける。
すると大きく目を見開いたザラが食い気味にエルドの方を振り返り、噛みつくように怒鳴った。
『おい何みんなボサっとしてんだ!総員、掃除道具を持て!』
「…掃除、道具…?」
『まだわかんないの!?あんたらほんとにリヴァイ班!?そ、う、じ、だ、よ!このきったない城見てまず何するかっつったら掃除でしょうが!』
怒鳴られた面々はアッと息を呑み、そしてほぼ反射的に全員がリヴァイの顔を凝視した。
氷のように冷たいリヴァイの視線が、部屋の四隅に溜まる埃をじっと見つめている。
「お前ら……早急に取り掛かるぞ」
リヴァイの呼びかけを皮切りに、リヴァイ班の面々は荷物を置くと、大慌てで古城の掃除に取り掛かったのだった。
『エレン!はいよ!雑巾』
「あっ…すみません、ありがとうございます!」
ザラはエレンと共に古城の上層階の掃除にあたっていた。
掃除の担当箇所を割り振る際、エレンと同じところをとザラが自ら名乗り出たのだった。
『やー、でも古城を改装したってだけあって、趣あるよねえ。こんなだだっ広いお城私たちだけで使うなんて、ちょっとワクワクしちゃう』
「そうですね…しかし、これだけの広さとなると、掃除だけでも手一杯ですね…」
二人は雑談を交えながら手を動かす。
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