第7章 歴史の動く時
『はは、笑えない冗談……』
ザラがぎこちなく笑っても、依然としてリヴァイの表情は曇ったままだった。
ザラは思わず、リヴァイの顔を凝視して、固唾を飲み込んだ。
『本当、なんですか?』
「……こんなつまらねえ嘘、誰がつくんだ」
瞬く間にザラの顔が青ざめ、信じられないといった表情で、リヴァイを見つめた。
『あの、少年が? あの時、壁の前で巨人に襲われていた、あの少年が…?』
ザラはかぶりを振りながら、うわごとのように、細い声で呟いた。
『巨人って…人間、なんですか。巨人が、人になる? それとも、人が巨人に、なるんですか? 私たちが今まで戦ってたのって…何でした? あれ、人間、でしたか…?』
「……知るか。混乱してるのは、俺も同じだ」
酷く顔の青ざめたザラを抱き寄せ、落ち着かせるようにリヴァイは優しく震える背中を撫でた。
巨人化する少年、エレン・イェーガー。
トロスト区内での惨劇の顛末は聞いただけでは信じ難い内容であったが、リヴァイは現に、巨人の頸から引っ張り出されるエレンの姿と、エレンという母体を失ったあと、崩れ落ちるように消滅する巨人の姿を目撃している。
そして、エルヴィンと共にようやく面会を果たした折、ほんの数日前の怪我が嘘のように完治した顔のエレンとリヴァイは再会した。
「…今のところは何も言えん。だが、人類史に新しい頁が追加されたことは確かだ。巨人化する少年が現れた。奴は自らの意思で巨人化し、岩を持ち上げ、壁にぶち開いた穴を塞いだ。…名を、エレン・イェーガーという」
『エレン、イェーガー…』
「明日、奴の身柄を憲兵とうちのどちらが受け持つかで、奴は審議に掛けられる。……俺たちは、奴を憲兵からぶん取るつもりだ」
リヴァイの腕の中で、ザラはぼんやりと、あの時に見た少年の姿を思い出していた。
朦朧とする意識の中で、リヴァイとザラの方を見、硬直していた。
(…そうだ、顔が焼けただれたように赤黒く染まって…酷い怪我だ、なんて可哀想に、って、思ったんだった…)
ただの少年だった。
目の大きな、まださほど年端もいかない、ただの、少年だった。
『…兵長、危なくは、ないんですか』
茫然と、ザラが言う。
.