第7章 歴史の動く時
リヴァイの後を追うようにすぐさまザラも降下し、アンカーの射程圏内に入った瞬間に、巨人を目掛けてアンカーを撃ち込んだ。
巨人の手が伸びる。
襲われている兵士の背中の紋章が目に入り、ああ、とザラは小さく呻いた。
掲げられた二本の剣。
訓練兵の紋章だった。
(可哀想に、訓練兵だ。まだ実践も知らぬ、訓練兵だ!どうしてこんなことに。どうして、こんなことに!)
リヴァイとザラの剣が、瞬く間に巨人の頸を貫いた。
轟音を立てて地面へと倒れ込んだ巨人の身躯の上へと降り立ち、ザラは茫然として、周囲を見渡した。
隣のリヴァイが、壁の前にいた三人の訓練兵を、ぎろりと睨みつける。
「オイ…ガキ共…これは…どういう状況だ?」
リヴァイの声につられるようにして、ザラは訓練兵の顔を見やった。
三人の訓練兵のうち一人は女兵士で、男兵士の一人は、顔面が赤黒くただれているようだった。
相当な怪我を負っている。
『…兵長!巨人が!』
別方向より忍び寄る巨人の影に気が付き、ザラが咄嗟に声を上げる。
リヴァイは一つ舌打ちをし、訓練兵に背を向けて前を見据えると、低く腰を落としてブレードを握り直した。
「…巨人の殲滅が先だ。ザラ、気を付けろよ」
ザラは黙って頷き、勢いよくアンカーを撃ち出すと、空高く舞い上がった。
その後、急遽駆けつけた調査兵団と駐屯兵団工兵部の活躍により、ウォール・ローゼは再び巨人の侵入を阻むこととなる。
しかしトロスト区内へと侵入した巨人の掃討作戦には丸一日が費やされ、壁上固定砲は絶えず火を吹き続けた。
ザラ達調査兵団は、壁上固定砲により仕留められなかった巨人の殲滅へと奔走し、戦いが収束したあとも、トロスト区の至る場所へと残された兵士達の遺体の回収にいとまがなかった。
『巨人化、する…? 人間が…?』
ザラがリヴァイの口から、エレン・イェーガーという少年の存在について知らされたのは、その少年が兵法会議により審議にかけられる前夜のことであった。
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