第7章 歴史の動く時
────ザラ、そろそろ、起きろ。
暗闇の中で、リヴァイの声が遠くに聞こえる。
ああ、この感覚を知っている、とザラは思った。
だんだんと遠くに聞こえていた声が近付き、音が鮮明に聞こえてくる。
夢が覚める前兆だ。
ううん、と小さくザラは唸り、枕に顔を埋め、近くにいるのであろうリヴァイを探した。
『兵長……、手、引っ張って』
いつものように手を掴んで起こしてもらおうと枕に顔を埋めたまま近くを探ると、空を彷徨っていた手を向こうからガシリと掴まれた。
しかしその手は、よく知っているリヴァイの手ではなく、どこか柔らかい、しっとりとした冷たい手だった。
「ザラッ!いつまで寝惚けてるの!」
親友の怒鳴り声の襲撃と共に、強い力で手を引かれた。
半ば強制的に起こされたザラは、起き抜けで霞む目で瞬きを繰り返し、ようやく目の前にいる人物の姿をとらえた。
『……ペトラ?』
「そうよっ!兵長じゃなくて悪かったわね!」
何をそんなに怒っているんだろうと辺りを見渡すと、見覚えのない部屋の内装が目に入る。
石造りの重厚な造りに、古びたテーブル、本棚……
ああ、とザラは頭を抱えた。
『ああ、そうだ……旧調査兵団本部にいるんだった……』
「わかったならすぐ起きる!今日の朝ご飯の当番私とあなたよ!」
項垂れたままぐずぐずとしているとまたもやペトラの喝が飛ぶ。
朝からなんて元気な奴なんだと若干の軽蔑の意も込めてペトラを見つめながら、仕方なくザラはベッドから降り立ち、着ていた寝巻きを脱ぎ捨て、簡単にシャツとズボンを纏いベルトを締めた。
「いーい?一昨日、寝ぼけて全員分のパンを床にぶちまけたこと、忘れたとは言わせないからね。今日は気合入れていきなさいよ」
『うるさいなあ〜、わかってるよ。エレンのあんな寂しそうな顔見たら、誰だって同じ轍は踏むまいと反省するって』
「ふうーん、やけに挑戦的じゃない。その言葉、ちゃんと行動で証明してよね!」
尖った声で言い争いながら、二人して部屋を出る。
ザラとペトラの現行所属部隊であるリヴァイ率いる特別作戦班───通称、リヴァイ班は、現在その拠点を旧調査兵団本部に置いていた。
その経緯は、数週間前に遡る。
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