第6章 そばに
穏やかに笑って、ザラは言った。
『私きっと、兵長より長くは生きられませんから。私が途中で離脱しても……死んでも、振り返らないでくださいね。あなたは、希望。私たち調査兵団の───そして、人類の』
笑っているはずなのに、その笑みがリヴァイには、どうしようもなく寂しいものに見えた。
言葉を失って、ただザラを見つめた。
『あなたの背中を追って、私たちここまで来たんです。だから絶対に、立ち止まらないで。私、追いかけますから。たとえ死んでも、あなたの背中を、追いますから』
震えそうになる声で、しかしきっぱりと、ザラは言った。
言って、目にうっすらと涙を溜めたまま、にっこりと笑った。
『死してなお、想っておりますよ。
死してなお───、傍におりますよ』
兵士として、そしてリヴァイを慕う者として、ザラはリヴァイの傍にいることを選んだ。
そしてその決意は、命が潰え、肉体が滅んだあとでも、魂としてリヴァイのもとに在り続けるとザラは言ったのだった。
ザラの真っ直ぐな想いが、そのままにリヴァイの胸を貫いた。
あまりの感銘に、目眩がするようにリヴァイは思った。
「……夢を、見せるなよ」
弱々しく苦笑して、やっとの思いでリヴァイは言った。
戦いが終わり、二人とも生き延び、ザラと、末長く幸せに暮らせたら───
そんな思いが、ふと胸をよぎったのだった。
『私、何も怖くありません。だって死んだら、ずっと兵長のお傍に居られるんですもの。何も怖くありません。私の魂はついぞ……あなたのものに、なるんですもの』
微笑んだザラの目から、涙が一筋、溢れていった。
リヴァイは両手でザラの顔を包むと、互いの額と額を合わせて、静かに目を閉じた。
「……俺も同じだ。死してなお、お前を想う。俺の魂は、お前のものだ、そして」
リヴァイは静かに笑った。
「お前は、俺のものだ」
ザラは目を閉じた。
なんて幸せな呪いなのだろうと心の底から思った。
死んでも途切れぬ魂の誓い。
その誓いを果たすために生き、果たすために死のうと心から思った。
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