第6章 そばに
リヴァイは思わず、やんわりと支えていたザラの腰をぐいと引き寄せた。
有無を言わさぬ強さであった。
二人の体はぴたりと合わさり、そのまま静かになった。
『……わかってるのに、夢見てしまうんです』
ぽつりとザラが言う。
『叶わぬ夢だって、ただの幻想だって、……一時の気休めだって、わかってるのに、夢見ずにはいられない』
思い描いた夢は、沢山あった。
故郷に帰れる夢。
また家族と暮らせる夢。
アーヴィンと所帯を持つ夢。
この戦いが終わる夢。
兵士ではなく、ただの女の子として生きる夢。
仲間たちとくだらないことで笑う夢。
リヴァイの隣で、生きる夢。
二人で生涯を、終える夢。
『もう……夢は、見たく、ありません。破れた時に、悲しいから』
一つ、また一つと、夢が潰えるたびに、ザラはどうしようもなく悲しい気持ちになった。
夢なんて、そんなものを持って一体何になろうと、淡い夢を抱いて笑っていた過去の自分を本気でなじった。
「……俺だって見るさ。亡くした者達が───失ったものが、ある日、ひょっこり帰ってくる。そんなくだらん夢を、懲りずに見る」
目を閉じたリヴァイの脳裏に、もう随分と薄れてしまった記憶のなかの母や、地下街からの苦楽を共にしたファーラン、イザベル、そして調査兵になってから知り合った戦友達の数々の顔が蘇っては、暗い闇の中に消えていった。
「…だが、もう十分だ」
『え?』
リヴァイは寄せていた身をそっと離すと、ザラの目を真っ直ぐに見つめて微笑した。
「お前がいる。共にある。それだけで、この残酷な世界で───この現実で、十分だと思える」
いつかくる別れを、二人はまだ知らない。
だが、今こうして、傍にいる。
それだけで今は、十分に幸せなことだとリヴァイは思うのだった。
『…兵長』
ザラの脳裏に、壁外調査へ出立する前に見た、リヴァイの背中が蘇った。
エルヴィンとの双翼。
この調査兵団の、自由の翼。
風に揺れる紋章がはためき、まるで輝いてさえいるように見える様を、ザラは思い出していた。
『……兵長。けして、振り返らないでくださいね』
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