第6章 そばに
『くだらない質問ですけど、聞いてくださいね。もし、この戦いが…巨人との戦いが、いつか終わったら、その時は兵長、どうなさいますか。何がしたいですか』
「…ふん、本当に愚問だな」
『ははは。そう仰らないで、考えてみてくださいな。ね、どうなさるんです、どこへ行きますか。何をしますか』
ゆらゆらと揺れたままザラは言葉を待った。
食堂からは兵士たちの楽しそうな声が漏れてくる。
さめざめと泣いている声もあったが、時折大きくなる笑い声にそれもかき消されていった。
「さあ…特に、何もないだろう。起きて、掃除して、茶淹れて、きっとそんなもんだ」
『わあ、なんて欲がないお人なんです。野望とかないんですか』
「うるせえな、人の勝手だろ。てめえはどうなんだ」
え、とザラが聞き返す。
「もし戦いが終わったら、てめえはどうする」
まさか問い返されるとは思っていなかったので、ザラは答えに詰まった。
やりたいことは山ほどあるような気がするのだが、いざ答えようとすると、これといって言葉にできるものはない。
『…聞いといてなんですが、難しいですね、これ。だって、人生の大半は巨人との戦いでしたもんね。よくよく考えたら、明確な生きる意味って私、それ以外に知らないかもしれません』
「生きる意味…か」
『でも、そうだな。ペトラとか、オルオとか…ハンジさんに団長、勿論、兵長も。みんなが居て、くだらないこと話して、一緒にご飯食べて、そんな日が、……そんな毎日が、特別なことなんてなくていいから、ずっと続けば、それだけで私……』
ふいに胸が苦しくなって、ああ、とザラは小さく呻いた。
リヴァイの肩口に額をつけて、ザラは笑った。
『……お傍に居たいです。兵長』
細く、掠れた声だった。
『戦いが終わっても、平穏が訪れても。兵長がその任を解かれた後も、私……お傍に居たいです』
言いながらも、ザラはわかっていた。
戦いは、終わらない。
思い描くような日を迎える前に、夢は夢のまま、散るのだろうとザラは心のどこかでわかっていた。
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