第6章 そばに
「踊……あ?なんだ?」
『踊りましょう、兵長』
聞き間違いかと聞き返すが、やはり真面目腐った顔でザラは踊ろうと提案してくる。
ザラの言っている意味がリヴァイにはまるでわからなかったが、ザラは立ち上がって、リヴァイへと手を差し出した。
あまりの唐突さに、踊る、という言葉の意味をリヴァイは頭の中で考えたが、やはり意味は一つしか見当たらない。
「…言っておくが俺は生まれてこの方、踊ったことなんてねえぞ」
『大丈夫です、私だって正しい踊り方なんかわかっちゃいないです。私と、兵長が、今、これだって思ったら、それがきっと正しいですから、大丈夫です』
何の根拠もない酷い納得のさせ方であったが、ザラに負けじとリヴァイも酔っていたのだろう、その時はなるほどそうか、と腑に落ちた。
差し出されたザラの手を握り、立ち上がると、嬉しそうにザラが笑う。
『えー、それでは』
ザラは背筋を伸ばすとぐいと近寄り、リヴァイの肩に手を置いた。
『兵長、これ、こっちの手、腰に回してください私の、そう。で、手を、そうです。はいそうです。で、私がここに乗せて……完成です。おお!?これ今、すごくそれっぽいのではないですか!』
それっぽいの定義がいまいちわからないリヴァイであったが、言われてみれば確かに形だけは、王都で見た貴族達のものに近い気がしないでもあった。
『じゃあ行きますよ、私ステップ踏むので、なんか、こう、いい感じに、一緒に動いてくださいね』
酔っているせいなのか、それともザラの元々の能力がそうであったのかは定かではないが、とにかく拙い語彙力でそんな指示をし、ザラは動き出した。
ザラの鼻歌が、リヴァイの知らない音律を辿る。
二人の体が穏やかに揺れ、一つになったように一緒に揺れる時もあれば、時折足を踏み出す方向がずれ、離れる時もあった。
離れた後は、すぐさまその隙間を埋めるようにお互いを引き寄せあった。
ザラの優しいハミングが、心地よく胸に落ちてくる。
しばらくの間、そうしながら、二人の体は寄り添ってゆっくりと動いた。
『…兵長?』
「なんだ」
黙っていたザラが、ふとリヴァイに呼びかける。
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