第6章 そばに
「なんで私が堪えなきゃいけないのさ!エルヴィンはいつもリヴァイに甘い!ふ、こ、う、へ、い、だ!!」
羽交い締めにされてもなおジタバタと暴れるハンジを何とか押さえつけつつ、エルヴィンが目配せでリヴァイに「ここは一旦離れろ」と促す。
リヴァイは憮然とはしていたが黙って頷き、拘束されていたミケの腕からするりと抜け出すと、ハンジの奇声を背中にその場を離れた。
ハンジの酒癖が悪いのはいつものことで、今日のようにリヴァイと喧嘩になることも多々あった。
普段は笑い事で済むことがほとんどであるが、ある一線を超えたら最後、止められなくなるのがハンジである。
今日はどうも相手の調子を見誤り、その一線を超えてしまったらしい。
ああなったらエルヴィンやミケ、ナナバが優しく寄り添わない限り、ハンジの癇癪は直らないのだった。
一度火照った顔を冷やそうとリヴァイは食堂の扉へと向かった。
横目で兵士達の様子を見ると、みな日頃の鬱憤を吐き出すように、近しい間柄の者と身を寄せ合って話し込んでいる。
たまにはこんな風に酒の力を借りて本音で語り合うのもいいのだろうなどと思いながら外へ出ると、そこにはもう先客がいた。
誰も来ないと踏んでいたのであろう先客は、突然のリヴァイの登場に驚いたようにほとんど反射的に後退りした。
「…! ザラ、お前か」
『は、はい、兵長、お疲れ様です』
食堂の前にしゃがみ込んでいたらしいザラは、慌てて立ち上がると敬礼をした。
「いい、いい。こういう場だ。堅苦しいのはよせ」
リヴァイがひらひらと手を振って言うので、言われた通りにザラは手を下ろす。
リヴァイが座り込むと、ザラもその隣に腰を下ろした。
『兵長も、休憩ですか』
「ああ、少しばかり飲みすぎた。体が熱くてかなわん」
ザラが小さく笑う。
『ははは、同じくです。もう脈なんか、バクバクで』
リヴァイはふとザラの顔をじっと見つめた。
食堂から漏れた灯りしか光源がないのでぼんやりとしか見えないが、ザラの頬も赤く上気しているようだった。
見られていることに気付き、ザラが顔を上げる。
暫くの間二人はそうして黙って互いの顔を見つめ合っていたが、やがてザラが、ふふ、と小さく吹き出した。
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