第6章 そばに
夕暮れが見えた。
あまりに美しい夕日だったので、列を成して歩く前方の兵士達から視線を外し、思わず馬上から夕暮れに見惚れた。
綺麗だな、とザラは思った。
「ザラ」
名を呼ばれ、振り返る。
後方から近づいて来たのはペトラだった。
「怪我はない?…酷い返り血ね」
『うん、少し切り傷が出来たくらい。…ペトラは?』
「私も、特に大きな怪我は。…輸送班の方に奇行種が向かうなんて、予想外だったわ」
『……そうだね』
近くに巨人の気配はない。
帰路ももうすぐ終わる頃で、壁内がすぐ近くに近付きつつあった。
馬を並ばせて歩きながら、二人は昼間見た光景を脳裏に思い浮かべていた。
運悪く奇行種と遭遇した壁外調査であった。
初列の巨人索敵班を無視した奇行種は、そのまま荷馬車からガスやブレードの替え刃を補充したばかりの輸送班を目掛けて突っ込み、陣形は大きく乱れた。
不意をつかれた輸送班のほとんどは錯乱状態に陥り、まともに立体起動に移る間もなく、数人が奇行種の餌食となった。
奇行種はすぐさまリヴァイとザラとが鎮圧し、それ以上の被害は出なかったが、その時頭から被った巨人の返り血は、今もなおザラの髪を赤黒く色付けていた。
「…? それは何?手に、持ってるもの」
手綱を握るザラが、左手に何かを大事に握りしめていることに気が付いたらしいペトラが言う。
ああ、とザラは短く返事をし、目線は前方から変えないまま口を開いた。
『……パティの。奇行種に襲われた時、腕が切れちゃったから。切れた腕についてたの、持って来たの』
「パティって、あの…」
『……うん。パティ・ブラッドロー。訓練で私とぶつかった、あの子』
ザラが握り締めているのは、何色かの糸で編まれたブレスレットのようだった。
糸に散りばめられるようにして鮮やかな色をした石が一緒に編み込まれている。
『家族に…ご遺族に、渡せるかな。両親と弟が、すぐ近くに住んでるって、言ってたの』
ペトラは頷き、それ以上何も言わなかった。
そっとザラの横顔を伺うも、表情からは何の感情も読み取れない。
ザラが怪我を負った際、責任を感じ、誰よりもザラの傍にいようとしたパティだった。
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