第6章 そばに
出立の準備を終えた兵士達が、順々に各自の持ち場へと進み、だんだんと索敵陣形が形を成していく。
壁の外と中とを隔てる門の前へと集結し、巨人の待つ壁外を目前に控えた今、兵士達は何を思っていたのだろうか。
ザラは荷馬車護衛班の持ち場についた後、次列中央、エルヴィン団長のすぐ脇に待機するリヴァイの背中を見つめていた。
単なる気のせいかもしれないが、周りの兵士達もみなエルヴィンとリヴァイの背を見つめているように感じた。
調査兵団の要となる二人の背中が、双翼のようにザラの目には映っていた。
他の兵士にも、きっとそう見えているのではないだろうかとザラは思う。
外套に縫い付けられた自由の翼の紋章が、時折風に煽られ、穏やかにはためいた。
ペトラは何があっても振り向かず前へ、と言った。
(この二人の姿があるから───きっと兵士達は、前へと進めるのだ)
物思いの合間に、ザラは確固たる自信を持って、そう思った。
行く先を、向かうべき場所を導くこの背中を追って、兵士は立ち上がり、兵士は克己し、兵士は進んでいく。
その時、見つめていたリヴァイの背中が動いた。
ほんの一瞬であったが、後ろを振り向き、後方に控えていたザラの方を見た。
目と目が合う。
見つめていた背中が突然こちらを振り向いたので、驚いてザラは目を丸くした。
リヴァイの口が小さく動く。
ザラを見据えたまま何か言っているようであったが、遠く離れたザラの耳に、その言葉は届かない。
生きろ、死ぬな、気張れ───
一体何と言われたのか、ザラにはわからなかった。
わからなかったが、思い当たったどれもが正解のようにザラは思った。
リヴァイは既に前へと向き直り、真っ直ぐに壁の外を見据えていた。
その背中を見つめ、進もう、と思った。
この背中を追って、行こう、どこまでも。
鐘が空高く鳴り響いた。
兵団を率いるエルヴィンの持つブレードが天へ向かって高々と掲げられる。
「これより壁外調査を開始する!総員進め!」
己を鼓舞するように兵士達は声を上げて走り出した。
馬の足音と嘶きとが、まるで嵐のように渦巻いて聞こえるのをザラは静かな気持ちで聞いていた。
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