第6章 そばに
心休まる時は瞬く間に流れ、新兵達にとって三回目の壁外調査の日がやって来た。
二回目の壁外調査を訓練中の怪我により離脱していたザラは気合十分に準備をして来たつもりだったが、怪我が治りきったばかりであるという身体の状態を鑑み、普段属している隊からは離れ、荷馬車護衛班として索敵陣形に配置されることとなった。
隊長であるハンジからの命に言うまでもなく不服そうな態度を見せたザラであったが、身体が本調子でないことは自覚していた。
自分の感情ではなく、兵団にとっての最善、兵団にとっての利益を最優先に考える。
リヴァイによって諭された言葉を思い出し、反発したい気持ちを堪えて、ザラは素直にその命令を受けたのだった。
『ペトラは今回、伝達班なんだっけ』
「私?そう、次列伝達班よ。ザラは荷馬車護衛班よね」
『あれ、知ってたの。次列か…索敵班ほどではないけど、巨人との遭遇率が高いわよね。十分、気をつけて』
出立の日の朝、部屋で支度をしながらザラが言うと、ペトラは一瞬きょとんと目を丸くし、そのあと明るく笑い飛ばした。
「壁の外に安全な場所なんてないわ、いつでも十分気をつけてるつもりよ。あなたのところだって、陣形の中心にいきなり奇行種が飛んでくるかもしれないわ、十分危険よ。……ザラだって、気をつけてね」
言って、ペトラはザラへ向かって両腕を広げた。
ザラは黙って頷くと、静かにペトラの背中へと腕を回した。
強い力で抱き締め、幼い子供が母親に向かってするように、ペトラの首元に顔を埋めて目を閉じた。
「ザラ、約束よ。お互い、どんな最期になろうと……」
『希望を失くさず、前に進み続けましょうね、……でしょ?』
ペトラの言葉を遮ってザラが続けると、ペトラは小さく苦笑した。
前回の壁外調査の際にも、壁の中に一人残るザラへ向かってペトラが言った言葉だった。
『大丈夫、ちゃんと進むよ。前見て進む。……大丈夫』
どこか自分自身に言い聞かせるような口調で、ザラが言う。
ペトラはその言葉を聞いて安心してように頷き、そっと寄せていた身を離した。
「……兵長とは、もう大丈夫なのね」
ペトラが笑う。
穏やかな笑みだった。
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