第6章 そばに
「人前で笑うお前だって、陰でよく泣くお前だって、人のことも自分のことも大嫌いなお前だって、全部お前の一面であって、その全てがお前自身だろ。お前が好きだ。お前の全部に、こんなにも惚れ込んでんだ」
リヴァイの言葉が、真っ直ぐにザラの胸を貫いた。
あまりの驚きに、思わず目眩でも起こしてしまうかとザラは思った。
それほどの衝撃がザラの体を包み込み、リヴァイの言葉を信じてもいいものかと疑う一方で、実感のない喜びがゆっくりと胸に忍び寄り、心が打ち震えるようのザラは思った。
『お傍に居て、いいんですか』
茫然とした口調で、小さくザラが言った。
『私、兵長のお傍に居て……いいんですか』
瞬きの間にも、大粒の涙が溢れては、ザラの頬を滑り落ちていった。
リヴァイは腕を伸ばし、柔らかくザラの体を抱き締めた。
リヴァイの匂いがザラの胸をいっぱいに満たし、あまりの切なさに、ザラは胸が千切れてしまうのではないかなどと頭の片隅でぼんやりと考えながら、きつく目を瞑った。
リヴァイの逞しい胸に縋って、ザラはまた涙を零した。
「……傍にいてくれ」
抱き寄せる腕に力を込めて、リヴァイもまた、瞼を閉じた。
「お前しかいない。俺にはお前しか……ザラしか、いやしねえんだ」
リヴァイの腕の中で泣きながら、ザラはふと、これは夢なのだろうかと思った。
ザラはよく夢を見た。
真っ暗な夜の中、一人で泣いている夢だった。
何の明かりも見えず、周りには人もおらず、今いる場所がどこなのかもわからぬ場所で泣いている。
何が悲しいのかもよく思い出せないのに、夢の中のザラはいつも途方に暮れていて、その場から動くこともできず、いつも決まって、その場に一人しゃがみ込んで泣いているのだった。
泣きながら嗚咽混じりにリヴァイの名を呼ぶと、暫くして、夜明けの来訪と共に、陽の光を一身に受けて、リヴァイがやって来てくれる。
どうしてここへと問うと、夢の中のリヴァイはいつも、お前を連れ戻しに来たと答えた。
ザラは嬉しくなって、リヴァイの胸に縋り付く。
すると、リヴァイはいつも強く抱き締めてくれるのだった。
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