第6章 そばに
「…お前は何か、勘違いをしている」
『え?』
「俺にとって、お前が、ただの一兵士だと…そうだと、本気で思っていたのか」
リヴァイの声が僅かに震えた。
こんなにも想っている。
だがその想いは完全なる独り善がりで、ザラには届いていなかった。
ザラは首を傾げた。
リヴァイの言葉の真意が掴めずといった様子だった。
ああ、とリヴァイは低く呻いた。
呻いて、思わずザラへと手を伸ばした。
ザラの頬へリヴァイの手が触れる直前、ザラは怯えるように、身を縮こまらせてきつく目を瞑った。
そうしたザラの挙動の一つ一つが、リヴァイの胸を締め付けて止まなかった。
始まりは、些細な思い違いだったのだろうと思う。
だがそのなかで、一体どれだけザラを傷付け、迷わせたのだろうとリヴァイは自戒の念に酷く苛まされた。
「……許してくれ」
弱々しく、リヴァイが言った。
「お前を想っている。寝ても覚めても、お前のことばかりなんだ。だが、俺はどうしようもなく不器用で───……お前を、傷付けた。どうしたらいい。どうすれば、お前の心は晴れる。どうすれば、傍に居られる」
ザラの黒々とした目が、大きく見開かれた。
そのままリヴァイを食い入るように凝視し、うわごとのように小さく、嘘、と呟いた。
心の器から、意図せず溢れ出たといった具合であった。
『……嘘。だって、嘘。こんな都合のいいこと、あるわけが……。だって、あなたはこの兵団の誇る、兵士で、人類の、希望で、』
不意に喉がぐっと詰まった。
堪えられなくなってザラは顔をくしゃりと歪ませた。
『そんな人が想ってくれるなんて、嘘。だって私、そんな出来た人間じゃない。想っていただけるような人間じゃない。私こんな、駄目で、いつも、不安定で───』
「嘘じゃない」
ザラの言葉を遮ってリヴァイが言った。
強い口調だった。
「出来た人間かどうかなんて知らねえ。んなこた、露ほども興味ねえんだ。ただお前が、───……どんなお前だって、関係ない。関係ないんだよ。俺はただお前が、お前の存在そのものに、どうしようもなく惹かれたんだ」
言葉を失ったザラの頬を、おびただしい涙が溢れては濡らしていく。
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