第6章 そばに
リヴァイは黙って微笑した。
ザラに近寄るわけでも、遠ざかるわけでもなく、ただ部屋の暗がりのなかに立ち尽くして、微笑していた。
泣かせてばかりだ、とリヴァイは思った。
いつも人の輪の中心にいて、にこやかに笑っているザラの姿が脳をよぎる。
屈託無く笑う彼女でいてほしいといつも思う。
できるのならば、その笑みを誰よりもそばで、見守っていたいとも。
現実はどうだ、とリヴァイは思った。
リヴァイの前でのザラは笑っていることよりも、深く悲しんだり、涙をこぼしている時の方が多かった。
(だがそれは、裏を返せば───)
それだけ、他の人間が知らないザラの笑顔の内側に、踏み入ることを許されているということだ。
あまりにも陳腐な自惚れだろうか。
だが、他の人間は知っているか。
普段笑顔を振りまく彼女が、こんな風に涙に暮れる瞬間があることを。
『…兵長』
窓際のザラが呼んだ。
名前を呼ばれただけだが、ザラがそばにきて欲しいと言っているようにリヴァイには聞こえた。
ゆっくりと足を踏み出す。
暗がりのなかから月明かりのもとへと晒されたリヴァイの白い肌と黒の瞳をザラはじっと見上げていた。
鼓動が俄かに早まったように感じられた。
喉が渇いて仕方がない。
だが今しかないと思った。
今を逃したら最後、リヴァイに想いを伝えられることなく自分は壁の外の冷たい地に骨を埋めることになると、ザラは本気で思ったのだった。
『迷惑だって、重々承知しています。でも駄目なんです。兵長がそばにいないと、駄目なんです。とてもじゃないけれど正気じゃないってわかってます、でも、どうか……どうかわかって、いただけませんか。……好きなんです。兵長のことが』
一息にザラは言い切って、俯いた。
俯けた目から絶えず涙が溢れては、床を濡らしていった。
『後悔したくありません。自分の気持ちに、もう嘘もつきたくありません。好きです。あなたが好きです。兵長にとってはただの一兵士でも、私は兵長のことだけが───』
「おい、待て」
ザラの言葉を遮って、黙って聞いていたリヴァイが口を挟んだ。
顔を上げると、驚いたように目を見開いているリヴァイと目線がぶつかった。
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