第6章 そばに
「私嬉しかったの。兵長の横にいる時のあなたは、いっつも無邪気にけらけら笑って、心の底から楽しそうだった。いつも苦しそうにしてるあなたが、兵長といる時だけはそういったことの一切から解放されて、手放しに笑ったり、泣いたり、怒ったりしてるところが、私は心底、嬉しかったの」
ザラの瞳をまっすぐ見つめて話すペトラの目から、ぽろぽろと涙が溢れた。
最愛なる友人のことを思うあまり、感極まって流れた涙だった。
「いつ会えなくなるかわからないわ。私たちが生きてるのはこんな世界よ。こんなことしてる時間ないのよ、きっと。さっき兵長が好きだと言ったわね。兵長が大切だと、言ったわね。その気持ちに反して生きるのは、よっぽど辛いことだと私は思うわ。ねえ…弱さを見せてよ。この世の中に、一人で生きていける人間なんて、きっと誰一人、いないんだから」
ペトラの混じり気のない言葉が、ザラの胸を強く打った。
ザラは思わず目を閉じた。
その閉じたまぶたの裏に、リヴァイの姿が浮かんでは、遠くへ消えていった。
抱きしめられた時の温もりや、優しい声や、笑った顔を思い出した。
胸が締め付けられるように痛かった。
『……ありがとう、ペトラ』
ザラはぽつりと呟くように言った。
『そうね…そうだった。私たちが生きてるのは、そういう世界だった。一瞬だって、こんな風に躊躇ってるのは勿体ないね。自分の心を守ろうとするあまり…本当に大切なものが何か、私、…見えてなかった』
ザラは小さく笑って、ペトラを見た。
『でも怖いわ』
微かに細めた目尻から、涙が一粒、溢れていった。
『あの人に…気持ちを伝えるの、怖いわ。でも、早く伝えたいとも思う。不思議ね。自分で自分がよくわからない』
「…いるのかしら」
『え?』
「自分で自分のことを完全に分かりきってる人なんているのかしら。私はわからないわ。わからないことが沢山ある。…誰だってそうなんじゃないかしら。わからないことだらけの中で、時折…ふと、確固たる答えが見つかる時もある」
ペトラはにこりと微笑んで、ザラの頭を撫でた。
「あなたの答えは、きっとリヴァイ兵長が知ってる。だから、行ってらっしゃい。後悔しないように」
『…うん、行ってくる』
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