第6章 そばに
『…不思議だな。なんでかいっつもバレちゃうの。上手くやってるつもりだったのに、いつも見破られちゃうのよ。……ペトラと、兵長には』
ザラの声がわずかに強張ったようにペトラは感じた。
理由は聞かずともわかる。
リヴァイのことだろう。
「…その兵長とは、どうしたの」
『うん?ああ…私が、逃げ回ってるだけ』
「どうして。兵長といる時は、あんなに楽しそうに笑ってたじゃない。…もう、嫌いになったの」
『まさか』
ザラは力なく笑った。
どこか自分を嘲るような笑い方だった。
『…好きよ、兵長のこと。でも、わからないの。私が…私なんかが、お近付きになっていい人なのかしら。私なんかが、好きになっていい人なのかしら』
ザラの目がふと遠くに向けられた。
その脳裏にはきっと、艶やかな黒髪を風に靡かせる、鋭い眼光の男がいるのだろうとペトラは思った。
『兵長に想いを拒絶されるのが怖いの。…笑っちゃうよね。でも、これだけは本当なの。私たぶん、あの人に拒絶されたら、本当に駄目になっちゃうの。…だから逃げてるの。あの人の口から、聞きたくないの』
ザラは、最後にリヴァイの部屋を飛び出した時の、リヴァイの顔を思い出した。
戸惑った顔で、悪かったと呟いた。
あの言葉の先を聞いたら、間違いなく、自分の心は完全に折れてしまうとザラは思ったのだった。
『どうしてだろうと時々思う。何とも思わない人にはズケズケ言えるくせに、本当に大切な人が相手だと…私、何にも言えなくなるんだわ』
「───だからじゃない」
黙って聞いていたペトラが、唐突に言った。
「だからよ。それだけ、想ってるからよ。そんな風に想ってるからこそ、伝えるのが怖いし、相手の反応の全てが気になるんだわ」
ザラは泣きそうな顔でペトラの顔を見つめていた。
「でももう…何かを我慢したり、無理して悲しむあなたを見たくないの。みんなの前で明るく振る舞って、影で悲しむあなたを見たくない。兵長といる時自分がどんな顔してたか、ザラ、知ってた?」
ザラは首を横に振った。
リヴァイといる時の自分のことなど考えたこともなかったが、ふと胸が温かくなった。
離れてから、リヴァイといる時こそが、心安らぐ瞬間だったのだと気が付いた。
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