第2章 第一印象は最悪
うっすらと頬を染め、どこか遠くを眺めるような目つきでペトラが微笑む。
同期であり、訓練兵団に入って初めてできた友人でもあるペトラの顔を、ザラは驚愕の表情で凝視した。
彼女の恍惚とした表情のなかに、リヴァイに対する思慕の念が滲んでいることに聡く気がついたのである。
『おいおい、嘘でしょペトラ姉さん、それはないって。さすがにないよ』
「な、なによ。まだ私、何もあなたに打ち明けてないわよ」
『いや、打ち明けてないっていうか、顔に書いてあるんですけど……』
なんであの人を、というところが率直なザラの感想である。
そもそも岡惚れするほどの接点あっただろうか?
確かに昨日ペトラに言われた通り、下手をすればエルヴィン団長以上に話題性のあるリヴァイ兵長だ。
人類最強なんて言われているし(噴水へ突き落とせたけど)、調査兵団に属していて、彼の存在を知らない者はいないだろう(顔は知らなかったけど)。
『一応聞くけど、なに、どうしたの。なにがどうして、そうなったの。普段はつっけんどんなあの人が、雨のなか捨てられた子犬に優しくしてるところでも見かけちゃった?』
「見かけてな……何その細かい設定、見かけてないわよ。なに、ザラは昨日あんな至近距離で兵長とお話できたのに、何にも思わなかったの」
『思うって、何を』
ペトラの心情を理解することは恐らく無理だ、とこの時点でザラは悟った。
悟ってはいたが、一応、人の話は最後まで聞いておこうというのがザラの友人へのせめてもの誠意である。
「あの洗練されたただならぬ雰囲気……、あの鋭い目も、低い声も、首に巻いたクラバットも、かっこいいじゃない。それでいて、人類最強なんて言われてるんだからもう文句の付け所がないわよね」
『……へー、要は、顔が好みってことでいいっすか?』
ザラが右人差し指の爪に挟まったゴミを親指の爪でいじりながら言う。
「ねえ、興味ないでしょ。なにその態度」
『やっ、まあ、なんだろう。やっぱり人間、生きてれば色んな人に出会うな〜と思っただけ』
「あーっ!バカにしてるわね!?ザラの分際で!」
『なっ!ザラの分際でとは失礼な!ただの悪口じゃん!』
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